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小宮果穂ちゃんになりたい

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  Ⅰ 問題設定

日本が子の奪取の民事上の側面に関するハーグ条約Convention of 25 October 1980 on the Civil Aspects of International Child Abduction(以下,1980条約)に参加して6年の歳月が過ぎた[1]。この間,日本におけるハーグ条約に基づく手続きの実施例は着実に増加している。一方で条約および実施法について,解釈上の論点はいまだ残されているように思われる。本稿は残された論点のうちでも重要と思われる,「子の常居所」について近時の国外における判例における理論化を概観することで日本法における同概念の解釈に資することを目指す[2]

1980条約は原則として,連れ去られた子供の監護権についてはその子供の連れ去り又は違法な留置の直前にいた常居所国で判断されることが子供のために最も望ましいという価値判断を前提として,連れ去り,違法な留置が発覚した場合は子供の直前の常居所国への迅速な返還を原則とする[3]。それゆえ,「子供の常居所」がどの国にあるのかということは迅速に判断されねばならない。しかしながらハーグ条約において「常居所国」は事実概念とされ、明文化されなかった[4]。それゆえに純粋な解釈問題とは言い難いが,認定方法について議論が生じた。

  1.条約の基本的枠組み

まず,1980条約における基本的な返還手続きの枠組みと,常居所の重要性について説明する。まず条約はいずれかの締約国に不法に連れ去られ、又はいずれかの締約国において不法に留置されている子の迅速な返還を確保すること(Art.1a)[5]を目的とする。まずいかなる事態において条約は発動するか。Art.3において定義される「違法な連れ去り/留置」があった場合である。それは子がその連れ去り直前において常居所有していた国における監護権の侵害[6]と評価できる場合である。この場合にLBPは常居所あった国もしくは連れ去り先の国の裁判所に返還の申し立てを行うことができる(Art.8)。返還の申し出を受けた国は迅速に子をもとの常居所国に返還しなければならない。ただしいくつかの重要な例外条項が存在する。第一は子供の年齢である(Art.4)子供が16歳以上のときには――16歳になった瞬間にはすでに手続きは係属中であっても――条約は適用はできなくなり,手続きは打ち切られる。第二は期間経過である(Art.12 (2))。連れ去りから手続き開始までの間に1年が経過している場合,子どもが新たな環境に適応していると認められた場合は返還は命ぜられない。第三に監護親が移転に同意していた場合である(Art.13(1)a)。第四にとりわけ問題になるのがGrave risk重大な危険の抗弁である(Art.13(1)b)。ここでは返還により子に重大な危険生じるときは返還をしなくてもよい[7]。DVからTPが子供を連れて逃げ出した事案において問題となる。第5が子供の拒絶(Art.13(2))である。子供が返還を拒み,かつその意見を考慮することが適切とおもわれる年齢および成熟が認められる場合は返還は拒否できる。

以上であるが,そもそものArt.3における「違法な連れ去り/留置」を基礎づける常居所は条約において定義されていない。これは常居所が事実概念であるとされたことに由来する。しかし,常居所は特定の物の存在のように誰もが一義的に決定できるものであるとは言い難い。それゆえに裁判所による認定が必要になる。そしてその認定方法をめぐって議論が存在する。

  2日本法における解釈―常居所

  (1)学説

現在,「常居所」概念自体は通則法上も取り入れられている。一方,住所や国籍とは異なり,「常居所」についてはその定め方について法定されていない。それゆえその解釈が国際私法上の重要な論点の一つとなっている。

学説上,常居所は人が長期間居住する場所であるとされる。「人が相当の長期にわたって常時居住する場所」と定義するものがある[8]。またこの「相当長期間」は客観的に認定可能なものであり主観的意図は関係がないとされる[9]。ただし,おのずから一つに定まるというものではなく,法解釈の対象となるものである[10]

  (2)裁判例

水戸家裁平成3年3月4日審判家月45巻12号57頁

1963年初来日し,1967年から約3年間元妻及び子とともに日本に滞在し,かつ,東京において定職を得て稼働し,その後も1971年にはさらに3回目の来日をなし,その時は,水戸市及び那珂湊市において相手方の長女とともに自作のヨットで船上生活をしながら語学教師等をしつつ約7年間も日本において生活を続けたYがいた。Yはその後1977年にヨットでイギリスを出立,スリランカでXと出会い生活をともにするようになり,1979年5月にまた日本に戻ってX及び生まれた長男と生活し,その約3年半後に日本を出て,ヨットで世界一周旅行に出て世界各地を転々とし,1990年5月にXらとともにまた日本に戻り,現在の肩書住所地において長男とともに生活しており,ここ1年前後は日本に留まる予定であった。しかしXは放浪生活に嫌気が差し,離婚調停を申し立てた。

裁判所はまず,現時点でのYの住所が日本にあることを認め裁判管轄を肯定した。一方夫婦の常居所については放浪を繰り返しており,1990年5月以降間もなく別居していることから常居所はないとした。一方,Yについては放浪の旅の中で日本以外におちついたことがないこと,一年は日本に滞在予定であることから常居所が日本であることを認め,一方Xも引き続き日本に居住し,日本人と婚姻する予定であることから夫婦の最密接関連地について日本であるとして日本法が準拠法になるとした。

②横浜地判平成3年10月31日家月44巻12号102頁

日本に駐留中で会い,婚姻した米国軍人Xと日本人Yの夫婦がいた。XYは1980年から神奈川県相模原市に居住し,長男が出生したが,1989年,別居に至ったという事案である。

裁判所は原告被告が来日以降10年以上日本に定住していることから日本法が夫婦の共通常居所法になることを認めた。

両裁判例ともに,明確な基準を定立しているわけではなく,一定程度長期にわたって居住しているかどうかが重要な考慮要素になっていると考えられる。

  (3)基本通達

平成元年の法例改正時に戸籍実務上も常居所の認定が必要になったため,基本通達「法例の一部を改正する法律の施行に伴う戸籍事務の取り扱いについて」(平成元年10月2日法務省民二第3900号民事局長通達)がだされた。そこでは「常居所」の認定基準について日本人の場合は一年以内の住民票により,それがなくとも出国後1年以上5年以内であれば日本に常居所があるものとして扱い,また5年以上他国に居住している場合は当該国に常居所あるものとされる。外国人の場合は在留資格との関係で複雑化しているため詳細は省略する。

当該基準は戸籍窓口において形式的に常居所を判断できるように定められたものであり,裁判所を拘束するものではない。また弾力性を欠く基準であることが批判されている[11]

  3日本における解釈―子供の常居所

  (1)学説

1980条約における子どもの常居所の場合は,成人のそれと比べて親の監護下にあることがほとんどであるため,両親の意図,行動が考慮要素に入ってくるのではないかという点で違いがある。また,身体,人格の発達途中であり,教育の連続性も重視され得るだろう。現在,1980条約における「子の常居所」について独立して扱った文献はほとんど見受けられないが,アメリカおよびドイツの裁判例を比較し,手続き上の考慮もふくめながら,ドイツモデルに従うべきではないかとの提案を行うものがある[12]。即ち,個別事件における具体的事情――滞在期間,子と周囲との接触状況等――から判断するが,その際親の意向については独立した要件としては斟酌をしないというものである[13]。また滞在期間については同一地域に6か月程度が最小限となるとし[14],子の主観的意図は地域社会への統合の程度の指標になるとする[15]

  (2)裁判例

①大阪高決平成29年7月12日家庭の法と裁判17号77頁

判例においてはほとんどが非公開であるため不明確であるが,がこの問題について判断を下した。ただし,常居所に関する事実関係および判断のみ検討する。

事案は以下のとおりである。本件では対象となる子の父であるX(アメリカ在住)が母であるY(日本在住)に対し,Yの違法な子の連れ去りによって監護権が侵害されたとして1980年条約実施法に基づき,米国への返還を求めた事件である。X,Yは平成23年ごろ知り合い,平成24年婚姻をし,平成26年以降米国イリノイ州で暮らしていた。しかしYの妊娠発覚を契機にYは平成27年日本への帰国,日本滞在中にに子が生まれた。その後平成28年アメリカにYと子はわたりXと同居を再開した。しかし,同年、Xは離婚手続きの申し立てをする。一方Y及び子は保護シェルターへ入居,その後同居再開することなく日本に単身帰国した。

原審(大阪家裁平成29年4月26日決定)は常居所について「人が常時居住する場所で単なる居所とは異なり,相当長期間にわたって居住する場所を言うものと解され,その認定は居住年数,居住目的,居住状況等を総合的に勘案してすべきである」「子は本件連れ去り時である平成28年×月〇日の時点で未だ生後7か月余りであり,社会的関係も意思も存在しない。したがってこの常居所国を判断するにあたっては,その監護者の意思が重要な要素となる」と述べ,子自身のアメリカでの滞在期間が日本のそれよりも長いこと,平成28年段階でYが日本に帰る意図ない旨電子メールで述べていること,グリーンカード取得のための協力をXに依頼していることなどから渡米後一か月滞在時はアメリカに滞在すること考えていたこと,保護シェルター滞在期間もアメリカ滞在期間にふくまれること,基本通達は画一的戸籍実務のためであって本件に適用されないことから,子の常居所がアメリカにあることを認めた。

抗告審においても判断は維持された。抗告審はさらに平成28年の渡米はXとの復縁を前提としたものであること,帰国計画があったとしても前夫との子Eの高校受験のための一時的なものに過ぎないこと,保護シェルターで居住し,かつXが子のパスポート持っていたとしても,YはXの求めた離婚の法的手続き,子との面会交流に応じ,また電子メールで頻繁にやり取りしていたことなどから保護シェルターにおける居住期間は強制的であり滞在期間に含めるべきではないとは言えないこと,さらに帰国の意思を持ち続けていたとしても,居住目的,居住実態からすれば子の常居所の判断について影響を及ぼさないと判断した。

本決定では乳幼児の場合という限定は付されているものの,監護親であるYの居住の目的が客観的な事情から認定され,重視されている点が着目に値する。

②その他の判断例

その他の決定例,審判例については詳細は不明であるが,裁判官が決定例を分析した文献がある[16]。同論文によれば,多くの決定例では居住期間,居住目的,居住に至った経緯,居住状況等の諸要素が総合衡量されるとする[17]。ここでは申立人(LBP)が常居所を主張する際には子の出生以来の生活場所,両親の仕事や子の通学・通園状況,LBPの主張する国で生活に至った経緯,同国以外に子が転居する予定や転居の具体的な準備の有無,程度,滞在資格の有無などが考慮要素として取り上げられることが多いとする[18]。一方TPが常居所の移転を主張する場合は二つに場合分けされる。TPは連れ去り直前においてLBPの主張する国が従前の常居所国であることはみとめつつ,転居の予定があり,常居所は移転しているとの主張した場合,転居先におけるTPの就職先,子の通学先,住居の確保など具体的な準備活動について的確具体的な資料の提出が求められるとする[19]。一方連れ去り後に日本に常居所国が移転したとの主張がなされる場合もあるがこのような主張が採用されることはないとされる[20]

  4 まとめと検討

以上から,現在において決定例の多くは個別具体的事案における諸要素を総合衡量していると思われる。また,子どもが小さい場合については親の意向が重要になるとの大阪高裁決定がある。一方その他の場合において親の意向の重要性は不明確である。またその他の考慮要素についても総合衡量であるとされるが,一定の基準があるわけではない。基準があるとするならば「子の最善の利益」(子供の権利条約(以下,CRC)9条,11条)くらいであるがこの点も抽象的に過ぎる。また前掲渡辺論文はドイツ判例から「子がその地になじみ定着しているかどうか」[21]という基準を立てる。しかし,第一にこの基準が適切かどうか不明である。第二に,日本の裁判例は今のところ明示的に「子の定着の程度」が基準になるとは述べていない。

以上の問題からするならば,「子の常居所」について一定の基準あるいは考慮要素の類型化をさぐることは意味があるものと思われる。さらにこの際,比較法という手段をとるべきであると思われる。詳細は後述のOCL v. Balev事件を参照されたいが,その理由は第一に,1980条約申立事件は,性質上,国際的性質を持たざるを得ない。さらにその判断は迅速になされる必要がある。よって,わが国のみならず,海外の裁判所,申立人から一定の予測可能性が確保される必要がある。第二に,現在,1980条約加盟国間で裁判官同士の情報共有システム(ハーグ裁判官ネットワーク)が整備され,外国法制,外国判例について迅速な情報共助システムができている。またハーグ国際私法会議(以下,HCCH)は1980条約をはじめとする国際家族法関連条約についての判例データベースINCADAT(https://www.incadat.com/en)を整備しており、これらから日本の裁判官が海外判例についてアクセスし、それを参考にしていることが予想できる。よって将来的に外国判例が日本裁判所の判断に影響を及ぼすことは十分に考えられる。第三に、外国判例における基準と日本決定例における基準が足並みをそろえることは国際私法の目的といわれるハーモナイゼーションの観点から望ましい。

よって,外国判例の分析は日本法解釈のためにも十分な意味があるものと考える。そこで本稿ではアメリカ,イギリス,EU,そしてカナダの判断を取り上げる。なお先行研究として前掲の渡辺論文があるが,渡辺論文の対象はドイツおよびアメリカであるのに対し,本稿はイギリス,EU,カナダを対象とする点,アメリカ裁判例についてより詳細に紹介・分析を行う点で価値は失われないと信じる。

  Ⅱ学説状況

  1 Perez Report

まずハーグ条約立法時における公的説明文書であるPérez-VeraのExplanatory Reportを見よう。そこでは,常居所について「常居所の概念について考察を巡らせるべきではない。それはハーグ国際私法会議においては十分に確立された概念であって,純粋に事実の問題であり,住所Domicileと区別される」[22]とする。そして,それ以上の説明はない。また1980条約にも,おそらく事実に関する問題であるという理由で,明文で定義はされていない。たしかに常居所Habitual Residenceの概念は1902年Guardianship条約2条においてすでに登場している[23]。とはいえ存在は確立された概念であっても,その内容については確立された概念といえるかは疑問である。また純粋に事実の問題であるとしても,いかなる事実から判断するかという点では法概念に近いのであり,事実の問題として問題が片付くかは微妙である。

  2 Cliveによる検討

子供の常居所について検討を巡らせた文献としてCliveのそれがあげられる[24]。Cliveは通常の常居所概念について検討したのち,子どもの常居所について検討する。Cliveは大人と同様の判断が子供についても妥当するとして,子どもの常居所が親に依存することはないとする[25]。しかし親の意図は重要な考慮要素とされるべきであるとし,このことは常居所を法的概念とするわけではないとする[26]。そして,親は子供の居住場所指定する権利を有するとして,両親の合意が欠ける場合には子供の常居所移転させる意思がないものとして大人における判断において常居所移転の意思が欠ける場合と同様に扱うべきとする[27]。ただし,結局長年の居住ある場合はその事実が結論左右するだろうともする[28]

  2 Schuzによる整理

常居所決定について各国判例批判的に検討しつつ,枠組みの検討を行っているのがRhona Schuzである。Schuzはその概説書においてまず,人が常居所を持たないということは可能なのか,または同時に複数の常居所を有することは可能なのかという問いを立てる[29]。そして前者については子供がもしも常居所を有しないとすると1980条約に基づく保護がそもそも受けられなくなってしまうという不合理性を指摘する[30]。後者(複数の常居所持ちうるか)については,各国判例上否定されているとし,その理由として「常居所」の定義上一つに限られること,および条約と条約全文が「常居所」を単数形で用いていることが指摘されているとする[31]。しかし,2か国両方に住居を有し,行き来する子供が実際にいること,その場合,唯一の常居所を擬制することは事実に反すること,その2か国間の移動について違法な連れ去り/留置であるとして条約適用するのは不適切であること,他の法領域で複数の常居所認めるものあることから常居所は唯一であるとするのは不合理であるとする[32]

次にSchuzは「常居所」概念が純粋な事実概念であるか,それとも法と事実が混在した概念であるかを問う[33]。そして,事実概念としてとらえる裁判例が多く,またPérez Reportも事実の問題としているものの,結局それだけでは決定できず何らかの基準が必要とされることから法と事実が混在した概念であるとする[34]。また,尺櫛定規な法理は現実の事件における柔軟な解釈に適さないという反論については,厳密な法理ではなく事実評価のためのガイダンスであるから柔軟な解決がかのうであること,原審判断が法適用の誤りとして上訴される可能性が高まるという反論に対しては上級審においては明白な誤りのみを認めるというルールを採用すればよいとする[35]

以上から,常居所決定が法と事実の混在する問題であること,よって何らかの基準が必要とされることが導かれた。そしてSchuzは決定のための基準として裁判例から3つの方法を抽出する。

その3つとは①親の意思アプローチ②独立/子供中心アプローチ③組み合わせ/ハイブリッドアプローチである[36]

①親の意図アプローチとは両親,とりわけ子供の居所指定権を持つ親の常居所変更の意図に着目する手法である。Schuzはこの手法は2つの前提から成り立つことを指摘する。第一は子の常居所は子の居所指定権有する親が決定できるべきであるというものであり,第二は子は子自身ではいかなる環境が自らにとって適切であるかを決定できないというものである[37]。それゆえ子がある国から連れらされたという場合には,TPが子供の居所指定権を有するかどうかが問題となる[38]。一方家族である国にいったん移動したものの,TPがこどもを連れ帰ったという場合には両親双方が新しい移動先を子供の新しい常居所とする意思があったかが問題になる[39]。ただしSchuzはUKモデルとUSモデルを区別する。UKモデルとはにイングランドおけるかつての判断方法で自発的な移住の目的を基準とするものである[40]。一方USモデルとは直前の常居所を廃する意図に着目するものである[41]。ただしこの要素は唯一のものではなく,他の諸要素のなかでの主要なものという位置づけである[42]

②独立/子供中心アプローチとは問題となる国と子供とのつながりの質のみによって常居所が決定されるのであり,子の常居所は親の意図から独立して決定されるというものである。このモデルは子供を自律的個人であるとみなし,当該国における子供の馴化の程度に焦点を当てる[43]。リーディングケースは後述Friedrich v Friedrich事件である。つながりがいかなるものかの判定のために様々な考慮要素が総合衡量される。さらにこの手法は,子供自身が滞在をどのようにとらえているかという点も考慮に入れるものがある。しかしながらこの手法において親の意図は全く考慮されないわけではない[44]。加えて,子どもが幼い場合には,自らその環境とつながりを作ることができないという理由から親の意図が重要になりうる[45]。Schuzはこの手法が明確性を欠くとしつつも,ドイツをはじめとした多くの大陸法圏の国々で採用されているとする[46]

③組み合わせ/ハイブリッドアプローチとは独立/子供中心アプローチにおける,子供の常居所は親の意図とは独立に決定されるという点,子どもに焦点があてられるべきであるという点は継承しつつ,親の意図も――少なくともそれが子供に対する振る舞い,コミュニケーションから明確になっている場合には――参照されるべきというものである[47]。独立/子供中心アプローチを採用しつつ,親の意図を考慮要素に入れようとする米国判例の試みを反映したものとされる[48]

Schuzは5つの理由から組み合わせ/ハイブリッドアプローチを支持する。第1は1980条約の論理である。親の意図アプローチが基礎に置くのは親が子供の居所を指定する監護権有するというものであるが,これは条約においては違法な連れ去り/留置であるかどうかという問題において考慮されるのであり常居所決定とは区別される[49]。加えてそもそも監護権の有無,内容の準拠法は子供の常居所法であり,監護権によって常居所決定は循環論法である[50]。さらに,親の意図アプローチは,裁判例の多くが限界事例において親の意図アプローチから逸脱していくように,現実と適合しない[51]。最後に親の意図を重視するという考え方はArt.13(2)において子供による拒否権がさだめられていることと整合しない[52]

第2は起草者の意図である。起草者は常居所がすぐれて事実的な概念であるとしていた,親の意図アプローチを採用した場合,たとえ子供が長年居住していた場所であっても親の一方の意図のみでは常居所を変更できないことになり,事実概念という起草者の意図と矛盾をきたす[53]

第3は条約の目的である。3つの目的から検討される。まず子供の保護という条約の目的のためには,親の意図という要因によって長年生育してきた環境から引き離されることは子供にとって有害である一方,独立/子供中心アプローチや組み合わせ/ハイブリッドアプローチでは子供がその環境で育っていくことができるかという点から馴化の程度が判断される[54]。次に適切な法廷地選定という目的からは,forum Conveniensのテストと独立/子供中心アプローチおよび組み合わせ/ハイブリッドアプローチが考慮要素として重なる部分が多い[55]。しかしながら,家族がもともとの国における期限の定められた滞在を終了させ,別の国での生活を始めようとしている場合など,常居所の移転が争われる場合においては,その後の将来長期にわたる監護権の帰属を考えるためには,もともとの国ではなく,移住先において審理判断することが適切な場合がありうるのであり,そのために両親の意図は考慮に入れられるべきである[56]。それゆえ,組み合わせ/ハイブリッドアプローチが適切である。最後はTPとLBP間での公平である。独立/子供中心アプローチの場合,TPが連れ去り/留置前に常居所を移転させる目的で適法な(合意ある)短期滞在を繰り返す場合,このTPの違法な行為を評価することができないが,組み合わせ/ハイブリッドアプローチであれば両親の意図を考慮に入れられるため,TPの行為を評価することができる[57]

第4は子供の権利利益である。子供を自律した個人として扱う独立/子供中心アプローチおよび組み合わせ/ハイブリッドアプローチはより子供の権利利益に資する[58]

第5は柔軟性と法的安定性のバランスである。まず,親の意向アプローチの場合は一つの考慮要素しかないため柔軟性を欠く一方,法的安定性が高いとはできない[59]。独立/子供中心アプローチと組み合わせ/ハイブリッドアプローチは考慮要素が多様であり,裁判官の裁量が大きいため柔軟性に優れる[60]。そして,組み合わせ/ハイブリッドアプローチが独立/子供中心アプローチに比してより法的安定性が高い。一見すると,組み合わせ/ハイブリッドアプローチは親の意図を考慮に入れるため法的安定性を欠くように思われるが,子どもの観点からとらえた親の意図はむしろ,その他の考慮要素を序列化するためである[61]。また組み合わせ/ハイブリッドアプローチは両親の明確な合意を考慮に入れることができる[62]

なおSchuzは他に,親の権利利益,婚姻法の抵触規則との一貫性,契約法の抵触規則との一貫性について検討する。以上の三つについては親の意図アプローチがすぐれているとされるが,最終的には組み合わせ/ハイブリッドアプローチが最も適切であると結論付ける。

 

 

  Ⅲアメリ

アメリカ連邦裁判所の判例法はMozes事件に代表される親の意向を重視する判断枠組み(以下,Mozesルール),およびFriedrich事件に代表される子供に焦点を合わせる枠組み(以下,Friedrichルール)に二分されている。この状況を受けて2015年にGarbolino判事のガイドラインが公表された[63]。Mozes事件,Friedrich事件,Garbolino報告書についてはすでに先行渡辺論文(前掲注12)が詳細に解説している。しかし,本稿全体における比較を可能とならしめるため,無駄な繰り返し作業となるがここでは再度判例法を紹介する。

  1 Mozes v Mozes事件[64]

  (1)事案の概要

両親は共にイスラエル国籍であり,1982年結婚、四人子供生まれた。1992年まで家族はイスラエル居住していた。1997年に母親(TP)が米国生活にあこがれていたことおよび子供たちに英語そしてアメリカ文化を学ばせるためアメリカでの生活を希望した。そして15ヶ月はカリフォルニア州に滞在し子供たちを学校に通わせることで両親は合意した。一年後,母親は離婚および監護権を請求する旨カリフォルニア州裁判所に申し立てた。父親(LBP)はカリフォルニア州裁判所に返還手続きを申し立てた。最年長の子供はイスラエルへ帰国を希望し,両親ともにこれを認めた。よって問題は9歳,5歳,5歳(双子)の三人である。

原審は父親の請求を却下した。父親が控訴。

  (2)判断

Kojinski判事は以下のように述べて父親の控訴を認めた。

まず「常居所」概念である。判断はPérez Reportに触れ「確立」されているかどうかをまず検討しなければならないとする。そして事実概念であるということから,「融通の利かなさを生みうる技術的法理を避けるために,裁判所は制約的なルールを発展させるのではなく,前提や推測を離れてそれぞれの事案ごとの事実と状況を評価しなければならない」一方で「国際的法統一のため,裁判所は評価の過程を説明できなければならない」とする。

「『常居所』のためには一定程度において「定住」の意味をもつものでなければならない。ただし骨を埋める予定まではいらない。定住目的に制限はない」。しかし「定住」とはなにか。単に「定住」だけならばサマーキャンプすら入ってしまう(限られた期限での「定住」)。それゆえにより分析の必要がある。そもそもなぜキャンプは「定住」に入らないのか。「それはキャンプする者がすでに他に常居所有しているためである。」。そこには旧常居所を廃する意図がない。「新しい常居所を獲得するためには,先んじた旧常居所を廃する意図が必要になる。」。また「常居所廃することは1日でも可能だが、獲得は永住の意思を持っていても1日は不可能であり,一定の期間が必要となる。」。

親の意図の重要性について。まず誰の意図が重要となるのか,と問う。子供か。しかし子供の意図は1980条約の他の箇所――16歳以上は条約の適用外であると定めたArt.4および返還の是非において子供が成熟している場合にはその主観を適切に考慮しなければならないと定めたArt.13 para2)――で考慮されている。両者に当てはまらないということは「子供は独立して自らの居住場所を選択できる立場にないことは明白である。」。

両親の常居所廃する意図がないにもかかわらず,子どもが一定のつながりを新しい地で有してしまった場合はどうか。このような場合であっても「両親の確固たる意図がない限り,裁判所は旧常居所が廃されたと推測することには消極的であるべきである。」。「1980条約は片親が子供を連れ去り別の国で監護権を取得するという動機付けを難しくさせることで,子どもの連れ去りを防ごうとする。両親の同意なき移転を認めることは上記の連れ去りへの動機を高めてしまう。」。また条約を適用する裁判所の役目はどちらの国が子供にとって幸せかを決定することではなく,当該親(TP)が一方的にStatus quoを変更したかどうかである。

ただし例外はありうる。子供が違法な連れ去り後15年間新しい国で暮らしていた場合などにおいて,常居所変更を認めないのは明らかに不条理である。常居所はあくまで事実概念であり,親の同意がなくとも,事実関係が明確に,新たな常居所を指示する場合がある。

  (3)検討

原審においても15ヵ月の移住の合意は認定されていた。原審はこれに加え,子供の馴化が必要であるとした[65]。しかし,控訴審はこれに加え,両親の旧常居所を廃する意図が必要であるとした。ただし,この廃する意図は客観証拠によって認定される。それゆえに例えば移住後の訴訟において両親が廃する意図なかった旨主張したとしても,客観証拠から,移住時点では廃する意図があったと認定されることはありうる。

渡辺論文がすでに指摘している通り,本件控訴審の判断はFriedrichルールをとった原審をすべて否定するものではない。要件として常居所廃棄の意図が必要であること,および子供の場合は両親の意図が問題となることを示したものである。但し,本判決中で常居所の廃棄は1日でも新たな土地に居住していれば可能であると述べられている点などからすると,馴化のための十分な時間,ひいては馴化それ自体が要件とされているかは定かではない。

  2 Friedrich v Friedrich事件[66]

  (1)事案の概要

1989年にドイツ人の父(LBP)およびドイツ駐留米軍の母(TP)が結婚し,同年子供が生まれた。1991年,両親のけんかのすえ,母親が家を出ていき,米国に帰国してしまった。よって父親がオハイオ州南部地区連邦地裁に1980条約にもとづく返還を申し立てた。

原審は常居所は米国に変更されたとして請求却下。父親が控訴。

  (2)判断

「常居所の決定については,裁判所は親ではなく子に焦点併せるべきであり,未来に向けた意図ではなく過去の経緯を審理すべきである。」。「子の常居所は,地理的に,又一定の時間の経過によってのみ変更されるのであって,親の愛情や責任によっては変更されない。」。「子はドイツで生まれ,母親が彼を米国に連れ去るまでドイツで一貫して暮らしていたのであり,よって連れ去り時の常居所はドイツにある。」。

  (3)検討

本件では子がまだ幼かった点が重要である。但し本件ではそもそも違法な連れ去り直前において子がドイツから移動したことがなかったのであり,移動させる親の合意もなかった。そもそも基準となる手法の差異に関わらず,常居所移転は認められづらかった事案であった。それゆえに判旨の理由付けも薄い。

Friedrichルールのより詳細な説明のため,Friedrich事件を明示的に先例として位置づけ,詳細な理由を付したRobert v. Tesson事件を見よう。

  3  Robert v. Tesson事件[67]

  (1)事案の概要

両親はもともと米国在住である。1997年,双子が誕生した。1998年,フランスで会社設立。カブリに不動産を買う。母親曰く住居立てるため。父親曰く投資としてだった。1998年, 家族はフランスへ荷物おくる。そこから数ヶ月は合衆国各地を転々とする。1998年12月,家族全員フランスへ。カブリの買った区画近くにアパート借りて生活する。その後婚姻生活破綻。別居。離婚手続きはしなかった。1999年6月,母子はアメリカへ。同年秋,父親からやり直そうと,そのための家を買ったとの連絡が母に来る。そのための住居のリフォームを父親は進めた。母親はなんだかんだでリフォームに関与はした。2000年,両親やり直すことに。2001年母子はフランスへ。子供たちはフランスの学校へ。フランス語に慣れるようになる。家族内の会話は英語で。しかし,結局やり直しは失敗した。2002年12月再度母子はアメリカへ。2003年フランスへ戻る。しかし当該住居はとくにリフォーム進んでおらず。住むには不適切であった。2003年10月,子供とともに母がアメリカへ(本件連れ去り)。

父親は1980条約に基づき返還を申し立てた。

  (2)判断

「先例としてはFriedrich v. Friedrich 983 F.2d 1396(6th Cir. 1993))が適当である。よってここから分析を始めるべきである。先例では常居所に疑いがないにもかかわらず、5つの原則が提示された。⑴法的住所やDomicileのような技術的なルールで決定されてはならない。代わりに裁判所は個別具体的事件における事実を見るべきである⑵1980ハーグ条約はこどもの常居所に関連するのであるから、裁判所は常居所の決定において、子供の経験のみを考慮すべきである⑶この調査は子供の「過去の経験」に限定されるべきである。両親の「将来の計画」は重要ではない⑷常居所はただ一つである⑸子供の常居所は主要な子供の監護者の国籍によっては決定されない。地理的移動、および時間経過のみが新たな常居所を構成しうる。」「他の巡回裁判所はFriedrichでの限定された考慮要素ではなく、加えて両親の主観的な意思を取り込む。」

「原審は合衆国からフランスへ移住するという共通の意思はなかったとする。とすると、裁判所は「客観的な証拠から疑いの余地なく」フランスが新たな常居所であると結論づけられるかを審理しなければならない。(Mozes v. Mozes, 239 F.3d 1067(9th. Cir. 2001)ルール)。」。「しかしこの原審判断は適切ではない。Mozesルールではなく、Friedrichルールによるべきであった。Mozesルールは単に先例と矛盾するというだけではない。それは簡単な事案を複雑にしてしまう。例えばRuiz v. Tenorio, 392 F. 3d 1247(11th Cir. 2004)ではメキシコにほぼ3年子供たちは居住していたにもかかわらず、先行する合衆国での居住をやめ、メキシコへの移住という両親の共通した意思はなかったが故に、合衆国から常居所は変更されていないとされた。」。「こうしたルールは子供達を馴れ親しんだ環境から引き剥がすことになり、1980条約が防ごうとした事態をむしろ現出させるものである。」。

「Mozes/Ruizルールはまた両親による「法廷地漁り」を防ごうとする条約の目的とも矛盾する。将来の連れ去り親はこれからの移転について留保しておけば良い。そうすれば、もしもの時には元の国に子供を違法に連れ去ることができる。」

「最後に、Mozesルールは子供は両親の「財産」ではないとする条約についての解釈指針と矛盾する。」。「よってMozes ルールではなくFriedrichルールが採用されるべきである。」。「とはいえFriedrichルール以外の全ての先例が排除されるべきではない。そもそもFriedrichルールはもともと単純なケースで述べられたものに過ぎない。とはいえいくつかFriedrichルール考慮したものあり、参考にできる。(原注4:ここで両親の共通の意思は考慮要素となり得ないが、子供が非常に幼い場合には両親の意思が重要な考慮要素になりうるとする裁判例がある。しかし、本件ではそのような非常に幼い子供はいない。よってこの点については言及しない)。」。「我々は子供の常居所国とは、連れ去りの時点において、それ以前に子供が馴化するに十分な時間所在し、かつ、子供の視点から見てその居住が一定程度定住目的をもっていた所在であった国である。そしてその審理においては、子供に、子供の過去の経験に焦点が当てられ、両親や、両親の将来の意思に注目すべきではない。」

「本件ではKarkkainen v. Karkkainen,445 F .3d 280(3d Cir. 2006)が参考になる。Krkkainenでの裁判所の手法は以下である。まず、両親の主観的な意思ではなく、Friedrichルールに沿う形で両親の行動を考慮している。主観的な意思ではなく、子供の母親と養父がいかに当該子供の合衆国における居住への姿勢を決定づけたか。そこでは子供に対して、住む国を選べるということが告げられていた。これは子供の経験に注目したものであり、Friedrichルールに沿う。また加えていくつかの事実的な状況を考慮要素にあげている。この中でも、3d circuitは教育活動は子供の生活の中心であること、それ故、高い馴化の指標になるということ。また社会への関与、スポーツプログラムやエクスカーションへの参加、人々および土地への実質的な繋がり、は子供の新しい国への馴化を示すとしている。加えて子供が、日用品のみでなくより、パーソナルな所有物を持ってきていることは定住の目的の指標になるとしている。そして、最後に子供の居住したいという意思は重要である。」

「たとえ、2001年以降の15ヶ月のフランス滞在において常居所はフランスにあったとしても、その後子供たちは2002年にデンバーで暮らし始めた時点で、アメリカに新たな常居所を得たとすることができる。デンバーで彼らはアメリカの幼稚園に通い、アメリカの学校に通い、エクスカーションに参加し、アメリカにおける母親の親戚の家に遊びに行くなどアメリカの親戚たちと実質的な繋がりを有していた。これに対してフランスでは、子供たちはフランス人としてのアイデンティティを得るには適切であっただろう父親との繋がりをほとんど欠いていた、同様に父親側の親戚からは無視されていた。」「では、3週間の最期のフランス滞在によって子供たちの常居所は変更されたか。いくつかの点はこのことを肯定する。子供たちはフランス語に堪能であった、彼らはまさにフランスの学校に編入するところだった。しかしこれらの事情は、子供達が彼らのフランス滞在が単なる一時的なものに過ぎないと見なしていたことを覆すには足りない。まず、フランスの父親は彼らをほとんど歓迎しなかった、第2に、彼らは自分の持ち物をほとんどフランスに持ってきていなかった、第三に子供達の滞在は3週間に過ぎないのであって馴化したというにはあまりに短すぎる。第四に、Mas Verdoline(家)の荒れ果てた状況はどんな子供に対しても、フランスの家は住めないと示唆したであろう。」。

「Friedrichルールはこれに矛盾しない形での修正が必要であった。最終的に我々は「子供の常居所は、子供がその土地に馴化するのに充分な時間所在した土地であり、そして子供の視点からみて一定程度の定住の目的があった土地」であるとする。この結果、本件での常居所国はアメリカである。」

  (3)検討

本件はそもそも事案が複雑である。子供たちと母親(TP)はアメリカとフランスを何度も往復している。この状況がそもそも子供の福祉にとって疑問となる状況であるが,問題となったのは最後の連れ去りであった。裁判所はこれについて子供中心アプローチを明示的に採用し,さらにMozes事件との比較からその理論的根拠を説明している。その理由は事案が複雑になるという点,および連れ去りを抑止することができないという点である。後者についてはむしろMozes事件では親の意図アプローチの利点として掲げられていたものであり,本件はその利点への批判である。一方Mozes事件からは,そもそもいちいち「常居所変更するものではない」と留保明示することが――しかも両親双方の合意の下で――可能かという再反論があり得よう。

常居所の定義から要件は①馴化するために十分な時間所在していること②子供の視点から見て一定の居住目的があったこと,である。

また本件は子供中心アプローチにおける考慮要素を検討しており,重要である。第一に重視されるのは子供の主観的な姿勢である。この事実を基礎づける客観的な間接事実として,教育,プログラムへの参加,親族等人的つながり,子供自身の所有物がどこにあるか,子供自身の意思という点が挙げられている。これらの事情は子供が居住に対する認識どうであるかを基礎づける事情であるとともに,馴化の程度を測る指標でもある。一方で以上は子供の主観的姿勢からは未来への計画,意図も考慮可能である。よって未来ではなく過去というFriedrich事件のルールの修正にもつながりうる。

  4 Garbolino報告書

条約適用のガイドライン示すために2012年,連邦司法センターよりGarbolino判事によるガイドラインが公刊された[68]。ここではMozesルールが多数派であり,Friedrichルール採用する裁判例は少数であるとされている。

加えてGarbolino報告書では馴化acclimizationについて触れ,とりわけ親の意向アプローチ(Mozesルール)において重要な概念であると指摘している[69]。前述の通り,例外的状況においてMozesルールは親の共通の意図がなくとも馴化の程度によって常居所の変更を認めるからである。そして馴化の考慮要素として裁判例から①一定期間の地理的所在変更②子供の年齢③子供と親の滞在資格④子供の教育状況⑤子供の社会的活動⑥エクスカーション,スポーツクラブなどへの参加⑦新しい土地での,場所および人々とのつながり⑧言語の習熟具合⑨子供の所有物,があげられるとしている[70]。上記の考慮要素において重要なことは親の意図は含まれていないことである。「親の意図」はあくまで別個独立の要件あるいは考慮要素である。

そのうえで同報告書は特殊類型について検討を加える。対象は移住等が強制によるものである場合,子供の滞在資格が不適法である場合,亡命の場合,子どもが乳児の場合である。ただし本稿ではまず,常居所の一般的な決定基準を関心とするからこれらについては――検討の必要性は十分に認識するものの――取り上げて紹介はしない。

  5 まとめ

アメリ判例における決定基準はすでに,多くの指摘がなされているようにMozesルールとFriedrichルールに分かれる。ただし,真っ向から対立するのは親の旧常居所廃する意図を原則として要件とするかどうかである。Mozesルール下においても,親の常居所廃する意図認められたとしても,子の馴化のための十分な所在がないとして常居所が変更していないとされる可能性は残る。また,Mozesルールにおいても例外的状況下では親の意図を要件とせず常居所が変更されることが認められる。

  Ⅳ EU司法裁判所

  1 前提

CJEUにおいては直接に1980条約における常居所の解釈を扱ったものはない。しかしながら規則No2201/2003が常居所概念を採用しており,これをめぐっていくつかの判断が下された。

規則No2201/2003 (Brussels IIa)はEU内における家族法についての抵触規則,および国際管轄等について定めた規則であり,1980条約,1993条約(Convention of 29 May 1993 on Protection pf Children and Co-operation in Respect of Intercountry Adoption), 1996条約(Convention of 19 October 1996 on Jurisdiction, Applicable Law, Recognition, Enforcement and Co-operation in Respect of Parental Responsibility and Measures for the Protection of Children)等の国際家族および児童に関するハーグ条約を下敷きにしている。とりわけ重要であるのがBrussels IIa Art.10[71] 及びArt.11[72]である。これらは1980条約が加盟国間で適用される場合に特別規定として適用されることを定めている。よって,EU加盟国間での1980条約の解釈は原則としてBrussels IIa Art.10, Art.11の適用解釈問題として表れる。

またBrussels IIaはAr.8[73]においても「常居所」を管轄権の基礎づけとして採用している。条文ごとに「常居所」解釈を変更するという道がないわけではないが,一般的には考えにくい[74]。よって,原則としてCJEUにおけるBrussels IIaの「常居所」解釈は,CJEUにおける1980条約の「常居所」解釈とほぼ重なるとみてよいだろう[75]

  2  Mercredi事件[76]

  (1)事案の概要

母(TP)はフランス領リユニオン島生まれでフランス国籍,父親(LBP)はイギリス国籍である。両者は数年間イギリスで同棲状態にあり,2009年8月に長女が生まれた。しかし直後から両親の不仲が続き,2009年10月7日,母親は長女を連れリユニオン島に帰ってしまった。同日,父親は監護権について電話で裁判所のHolman判事に訴えた。Holman判事はこれを受けて事件を自分のところに回付させた。同月12日父親はイングランドにおいて監護権および面会交流についての申し立てをする。これは母親への送達なしで行われ,よって母親欠席により父親の監護権が認められるとともに長女の返還命令が発令された。一方母親は同月28日,フランス裁判所に単独監護権の申し立てをした。そして12月,父親が1980条約に基づく返還申立を行った。ただしこの訴え(1980条約に基づく返還申立)は母親が出て行ったとき父親は監護権有さなかった[77]との理由から却下された。一方フランスにおける訴訟では2010年6月,母親の単独監護権が認められた。ただしこの判決は父親及びフランス政府からの異議申し立てによりまだ確定していない。

しかし2009年10月12日に父親が申し立てた手続きは残っている。その控訴審で2009年10月7日に父親の申し立てによってイングランドに訴訟係属しイングランド裁判所が監護権有することになったこと,父親が監護権認められたこと,長女はいまだイングランドに常居所有していることが認められた。母親が上訴。

上訴をうけた連邦控訴院は欧州司法裁判所(CJEU)に以下の点について照会をおこなった。

1) 規則No2201/2003 Art.8およびArt.10の目的から照らして子供常居所を決定するために適切な手法は何か?

2) 規則No2201/2003の目的から監護権が裁判所に帰属することあり得るか。

3) 1980条約に基づく申し立てが却下されたのちも,規則2201/2003 Art.10に基づく申立は継続するか。とりわけ1980条約Art.3およびArt.5についての加盟国間での判断の矛盾はいかに解決されるか?

  (2)判断

CJEUは以下のように答えた。ここでは照会事項1)に対する回答を紹介する。

「規則No2201/2003 において「habitual residence」は定義されていない。「habitual」という形容詞からresidenceが一定程度永続的もしくはregulatoryでなければならないというだけである。」。「加盟国の国内法への参照がない。よってそれ自身独立に、EU内で統一的に解釈されねばならない。」。「子供の最善の利益の保障が最も考慮されるべきである。Art.8 における常居所は、子供の社会そして家族環境への一定程度の統合を反映した場所である。この場所は各国国内裁判所が当該事件に特有の全ての状況を考慮に入れて決定しなければならない。」。「なかでも、子供の居住状況、その理由、子供の国籍について言及しなければならない。」。「子供の物理的な所在に加えて、その居住が一時的もしくは中間的なものではないことが明らかにされねばならない。」。「上記の文脈において、両親の恒久的に子供を他の国に居住させるという、明白な意思–それは不動産の購入などの確かな物証によって基礎付けられるが–は常居所変更のための導線indicatorとなることができる。」。「この点において、常居所を一時的な所在と区別するために、常居所は一般的に、ある程度の永続性を反映した、一定程度の継続性が必要となる。しかし、2201/2003は最小の期間について定めていない。継続期間は、あくまで、永続性の推測材料となるにとどまる。そして、評価は当該事件に特有の全ての状況を考慮に入れて行わなければならない。」

「本件においては子供の年齢も特別の重要性を有するだろう。」「社会的、家族的環境は、それは常居所決定において根本的なものであるが、子供の年齢に従って異なる、多様な要素からなる。」。「一般的には、幼い子供の環境は家族環境にとって本質的である。それは子供がともに生きる大人、子供が世話をされケアされる大人によって決定される。」。「また、幼児については、その社会、家族環境をその幼児が依存する大人と共有する。本件について言えば、幼児は母親にケアされていた。よって、母親が社会、家族環境にどれだけ統合されていたかを評価しなければならない。」。

「幼児が母親とともに、母親の常居所以外の国に、数日のみ滞在していたという場合には、第一にその期間、継続性、状況、そこにいる理由および、その国に来た理由、および母親が移動した理由が、第二に、子供の年齢に応じて母親の地理的そして血縁的出自が、母親の社会、家族への繋がりが考慮されねばならない。」

よって

「規則2201/2003Art.8およびArt.10における『常居所』は以下のように解釈されねばならない。即ちそれは子供の社会そして家族環境への一定程度の統合を反映した場所である。結果として,幼児がその母とともにたった数日しか常居所ではない移動先のとある国に滞在していない場合,以下の諸要素が考慮に入れられねばならない。即ち第一にの期間,適法性,状況,滞在の理由と母親の移動の理由が。第二に,とりわけ子供の年齢,母親の地縁的および血縁的出自,母親と当該子が有するその国での社会と家族とのつながりに言及されなければならない。子供の常居所の認定のためには,その事案特有のすべての事情が考慮されなければならない。」

「もしも上記のテスト適用において,常居所の認定ができなかった場合には,Art.13の下でいかなる裁判所が管轄権有するかについて検討されなければならない」

  (3)検討

注目すべきはまず,解釈指針として「子供の最善の利益」が明示されたことである。そして常居所は「子供が社会にそして家族環境に一定程度統合されている場所」と定義された。その評価のためにCJEUは「当該事件に特有のすべての事情」を考慮しなければならないと定めた。

また本件では必ず考慮しなければいけない要素として居住状況,その理由,国籍あげられるとともに,年齢に応じて考慮要素ことなることがしめされた。さらに親の意向は直接の考慮要素となるのではなく,子供の居住状況についての導線となること,ただし幼児の場合においては監護する親についての事情が重視されることが示された。

  3  C. v. M事件[78]

次に少々特殊な事案であるが,C v M事件を見る。連れ去れり元の国において一度下された判断に基づいて片親が出国したのち,その判断が上級審で覆された事案である。

  (1)事案の概要

C(イギリス国籍) M(フランス国籍)は2008年フランスで結婚して、同年6月子供フランスで誕生。2008年11月,フランスにおいて離婚手続きへ。結果,子供の常居所は2012年7月以降母親とともにあるとされ、一方父親に面会交流と滞在の権利が与えられる。判決では母親はアイルランドに居住することが認められる。父親は子供についての方法および母親との共有財産についての支払いについてのみ控訴。しかしこれは却下。2012年7月に母親は子供とともにアイルランドへ。ただし母親は父親の面会権、滞在権の行使を認めようとはしていない。2013年3月、フランス控訴院が居住についての判断ひっくり返す。子供は父親とともに居住すべきで母親は面会交流権、滞在権のみとする。母親は子供の引き渡しは当然拒否した。2013年父親が単独親権得るため、そして子供を父親の許可なく出国させることの禁止を求める訴え。これは認められる。2013年、アイルランド高裁にArt.10による返還請求。アイルランド高裁はこれを拒絶。理由は子供がアイルランドに来たことそれ自体はフランス裁判所の終局決定によって認められている(方法についての異議は却下されている)。子供の居住が一時的、条件付きのものと考えることができない。母親が連れてきた時から子供の常居所はアイルランドにある。

アイルランド最高裁は以下の点について照会した。

1)監護権についてフランスに手続きが継続していることは、本件において、アイルランドが常居所となることを不可能ならしめるか?

2)父親であれフランス裁判所であれ、子供についての監護権を保持し続けることが、違法な留置とみなすために必要か?

3)2012年7月段階ではフランスにとって違法ではなかった連れ去りによってアイルランドに居住する子供の常居所について、アイルランド裁判所が判断することができるか?

  (2)判断

判断は以下のとおりである。

前提として「2012年4月2日の判決によって子供は適法にアイルランドに連れてこられたということである。これは終局判決ではないが、仮執行可能なものであった。」。「よって、仮執行可能な判決によって子供が他国に移動した後、元々の国でその判決がひっくり返され、元々の国に居住する親と住むべきとされた場合であっても、返還手続きを受理した移動先国裁判所は、その事件に特有の全ての状況から主張されているところの違法な連れ去りの直前において常居所がまだ元々の国にあったかを決定しなければならない。」とする。

そして常居所についてMercredi事件を引きつつ「子供の常居所は国内裁判所によって決定されなければならないがその際、それぞれの個別の事件に特有のすべての事情を考慮に入れなければならないとしてきた。この点について子供の物理的所在地のみならず、その滞在が一時的なものもしくは中間的なものではないことが明らかにされなければならず、子供の居所は子供の社会へ家族環境への統合を一定程度反映した場所と一致しなければならない。」とする。そしてこの基準はArt.11おける判断でも妥当するとした。

次に仮執行可能な判決あったことはどう考えるか。「子供の滞在の理由及び連れ去った親の意思について審査する際には、裁判所が連れ去りを仮にではあるが認めていることそしてそれに対して控訴なされていたという事実は重要である。判決は仮であるから、それのみで子供の常居所が移転したということを基礎付ける事実にはならない。」。ただし,認めないのではなく「子供の最善の利益を保障しなければならないという点に鑑みるならば、これらの事情は、この事件特有の全ての事情の評価の一部として、他の子供の統合の程度を立証するような事情に対して重みが与えられるであろう。しかしながら当該判決以降の経過した時間というものは考慮されるべきではない。」。「本件のように仮執行可能な判決によって子供が片親とともに移動したのちに、その判決が破棄され移動元の国に住む片親に共に居住する権利が与えられた場合において、移動先の裁判所は、その事件特有の全ての事情の評価を担うことによって、子供が未だ移動元の国まだ常居所有しているかについて決定しなければならない。評価の一部として、判決が仮にではあるが移動を正当化していたこと及びこれに対して異議申し立てがなされていたことは重要である。」。

よって

「規則2201/2003 Art.2(11)およびArt.11は以下のように解釈されねばならない。即ち,いったん仮執行可能として出され他判決に基づき子供が移動し,その後その判決が覆され確定したような場合において,移動先であり返還申請を受けた国は,その事案特有のすべての事情を評価して,違法な連れ去り/留置の直前において未だ移動元の国に子供の常居所があったかどうかを決定しなければならない。その際,移動が依拠した判決が仮執行可能なものであったことおよび,その判決に対する上訴が継続中であったことを考慮に入れることは重要である。」。

「規則2201/2003において,いったん仮執行可能として出された判決に基づき出国したものの,その後その判断が覆され確定した場合において,その後の返還が失敗した場合,主張されている違法な留置の直前における常居所が移動元の国にある場合は,当該留置はArt.11における違法な連れ去り/留置となる。逆に,もはや常居所は移動元の国にないとされた場合,返還申請を却下することはChapterIIIにおける判決の承認執行についての条文の適用を排除するものではない」

  (3)検討

特殊事案であるが,Mercredi事件における基準が踏襲されたことは重要である。とりわけ,その基準がハーグ条約手続であるArt.11における「常居所」判断においても妥当するされた[79]

また,他国においてなされた法的判断がいかに常居所判断に取り込まれるかを示した点でも重要である。

  3  OL v. PQ事件[80]

近時,子どもの常居所の決定方法をめぐって常に問題となる親の意図について判断した判例が現れた。

  (1)事案

父親はイタリア国籍,母親はギリシャ国籍である。両親はアテネでの出産をについて合意し,2016年,母親アテネに移動、出産した。2016年6月に父親がイタリアで離婚手続きおよび親権者決定手続き開始した。ただしこれはイタリア裁判所は親権者決定にてついては管轄権なしとして却下された。離婚については認められた。同時期に父親はギリシャにおいてイタリアへの子の返還を求めた。

ギリシャ裁判所からのCJEUへの以下の事項が照会された。

1)規則 No 2201/2003 Art.11(1) における常居所の適切な解釈とは何か。共同の責任を有する両親がそこを常居所と定める意思がない場所で生まれた子供の場合、そして、その国に片親によって違法に把持されたもしくは第三国に連れ去られた場合。より特別には、物理的な居場所という要素は全ての常居所を定める場合において前提とされるべきかそれとも新生児の場合のみか?

  (2)判断

「常居所は一定程度子供とその社会における統合の程度、家族環境と対応しなければならない。また、国内裁判所によって特定される場合には個別の事案における特殊事情が考慮されなければならない。」。「両親の永住の意思は、考慮に入れうるcan also be taken into account。ただし、物件購入したなどその意思が明確な場合において。よって、両親の意思は、No2201/2003 においては、それ自身によって常居所決定するものにはならない。ただし他の証拠の内容を補完する、導線になる。」。「常居所決定においては当該事件に特有の状況にこそ、重みが置かれるべきである。」

「両親の明確に示された意思を決定的なものとするならば、No2201/2003における「常居所」の概念、返還手続きの構造、実効性、目的を超えることになる。少なくとも子供の最善の利益はこの解釈を要求していない。」。なぜならば「第一に両親の意思は、出生以来継続的にある国に子供が居住しているという事実を乗る越えるべきものとされるべきではない。」。「第二に、1980ハーグ条約および規則No2201/2003の構造から両親は共同で子供の居住地を定める監護権を行使するのであって、それゆえ母親が単独で子供の居所を決定することはありえないとする意見は、子供の常居所決定において決定的なものではない。「違法な連れ去り・留置」は監護権に基礎を置くが、その監護権は連れ去り、留置前の子供の常居所国のに従う。それゆえ、返還申請において、子供の常居所決定は監護権の侵害の特定に先行する。よって、監護権の行使としての同意は常居所決定において考慮されることはありえない。すなわち、あくまで「事実」の問題である。」。「第3に、両親の当初の意思に決定的な重要性を与えることは返還手続きの実効性および法的確実性にとって有害である。返還手続きは急速な手続きであり、目的は迅速な返還である。申請はそれゆえ、迅速に素早く検証可能な証拠、非口頭証拠を基礎に置かなければならない。しかしながら両親の意思、父親の同意について全ての合理的疑いを否定して認定することは難しく、また不可能に近い。しかしながら、両親の当初の意思が重要な要素だとしたら、国内裁判所はその決定のために非常に多く証拠と証言を収集しなければならない。」。「第四に、返還手続きの目的は子供を最も慣れた環境に置き、子供の生活環境の継続性を保っって成育できるようにすることにある。よって、一方の違法な留置という行為はそれのみによっては子供を生まれ育った国から他の国へと移送することを正当化しない。」。

「また、片親が、違法な連れ去り・留置によって、子供をある裁判管轄から逃して自らの監護権の地位を強化させないことにある。しかし本件では母親にそのような目的はない。」。

「最後に、子供の「常居所」は子供のbest interestに従って解釈されねばならない。とりわけ、両親双方との個人的繋がりおよび直接の交流を保つ子供の権利(CRC Art.24(3))は子供が子供が生まれる前に両親が居住していた国をこどもが訪れなければならないとしているわけではない。」。

よって

「規則2201/2003Art.11(1)は以下のように解釈されねばならない。子供が,誕生後,母とともに数か月,両親が子供の誕生以前に常居所有していた国と異なるある国で過ごしており,その滞在が両親の意図に沿ったものである場合,両親間での母親及び子供の帰還の合意があるということは,その帰還先の国が子供の常居所であるということを結論付けない。

結果として,そのような場合における母の帰還の拒絶はArt.11(1)における『違法な連れ去り/留置』ではない。」。

  (3)検討

まず,本件判断は「事案に特有のすべての事情」から「子供の社会,環境への一定の統合の程度」を評価するというMercredi事件の判断枠組みを引き継ぐ。このことは子供が極めて幼い場合であってもMercrediルールが適用されることを示す。

本件判断は親の意向の位置づけについて条約の目的,構造から導いている。この解釈は同様の理由付けが後述カナダ最高裁でも用いられたことから,今後国際的に広まっていくものと思われる。

また本件は親の意向について「それが明確な限りで」考慮しうるとする。これはMercredi事件においても述べられたものである。

  4 まとめ

CJEUの判例によるルールは以下のように特徴づけられると思われる。

①解釈は子供の最善の利益に従わなければならない。

CJEUにおける特徴的な解釈指針である。これは1980年条約がその当初においてはむしろ親の監護権の保護にも焦点が当てられていたのに対して,子どもの保護のみに焦点があてられるようになったことの反映である。

②常居所は子供の一定の社会および環境への統合の程度を反映した場所である。
③考慮は「その事件における特有のすべての事情」を考慮しなければならない。

②における「統合」はガルボリーノ報告書において馴化と名付けられていた概念に近似するように思われる。しかし重要であるのは「馴化」概念はあくまでMozesルールにおける例外事情として機能する概念であったことである。ここでの「統合」概念はそれが常居所についての直接の指標となる。しかし後述するカナダ判例のように「馴化」概念はむしろ独立/子供中心アプローチにおける唯一の基準である――「統合」と同様の機能有する――とみられる状況が出現しつつある。

「統合」においては子供の年齢,国籍,居住状況,社会的環境,居住の適法性,居住の理由(定住目的か,期間の制限あるか),子供の国籍等が考慮される(Mercredirルール)。ただし居住の理由はあくまで考慮要素の一つであるとともに,親の意図はここで絶対視されない。親の意図はそれが明確になる限りにおいて,居住の理由についての導線indicatorとなるにとどまる。この点で「馴化」が純粋に子供に焦点を当てたものであるのにたいして,親の意図が居住の理由に間接的に組み込まれ得る点で「統合」は異なる。

④子供が幼い場合,監護親の常居所決定における考慮要素(地域社会,環境への統合の程度,人的つながりなど)が考慮される。

子供が幼い場合は,その生活のほとんどを監護親に頼らねばならない。それゆえに監護親の事情(出自,社会及び環境とのつながり,移転の理由など)も考慮される。ここにおける「監護親」とは法的に監護権与えられた親ではなく,実際に子供の監護を第一次的に担う親であると解釈されるべきだろう。

⑤他国に訴訟係属していること,あるいは他国の判断があることは当然に子供の連れ去り/留置を違法もしくは適法ならしめるものではない。しかし,考慮要素の一つとなる。

他国の判断は法的なものであり,事実概念としての常居所決定に含まれるかが問題となりうる。しかし,他国における法的手続き,その結果は居住の理由,性質に関連する事実として扱うことが可能と思われる。また,他国裁判所の判断は礼譲の原則からも基本的に尊重されるべきであろう。しかし判断をそのまま是認することは事実の問題を承認・執行の問題とすり替えることであり許されない。よって一事実として考慮要素の一つに過ぎないと考えることが適当であった。

以上の解釈はSchuzにおける組み合わせ/ハイブリッドアプローチあるいは独立/子供中心アプローチと同じものだろうか。たしかに,親の意図は絶対の要件ではない。また,第一の考慮要素としての位置づけが与えられているわけではない。明確に認定できる限りで,他の考慮要素の導線として考慮されるにすぎない。この解釈は組み合わせ/ハイブリッドアプローチを示唆するように思われる。

ただし,微妙な差異もある。例えば幼い子供についてCJEUはその監護親についての考慮要素を重視する。また,子どもの国籍も考慮される。

 

  Ⅴイギリス

イギリスでは,後述CJEU判決もあり,近時立て続けに3つの判決が最高裁[81]より出された。これにより従来の常居所についてその意図を重視するイギリス判例法の枠組みは1980年条約については変更されたとみることができる。ただし,イギリスも未だEU加盟国(2019年3月11日現在)である以上,CJEUの判断に従う。よって,主要な点は後述のCJEU判断によって決定されているといえる。よってここでは詳細な理由付けに立ちいるというよりも,CJEUの判断がイギリスにおいても採用されているという点を中心に確認する。

  1 A v A事件[82]

  (1)事案の概要

父親は1960年代にパキスタンからイギリスに来たパキスタン移民の子で,生まれ,育ちはイギリスである。母親は生まれも育ちもパキスタンである。両者は1999年にパキスタンで結婚し,イギリスにおいて父方家族とともに暮らしていた。2001年,2002年,2005年に子供がうまれる。2008年に父親の家庭内暴力ののち,母親は子供を連れて父親から避難,別居した。その後,母親はパキスタンへ旅行するが,そこには父親が待っており,父親の親族および母親自身の親族から和解するよう強制される。母親と子供たちはパスポートを取り上げられ,子どもたちは現地の学校に通うことになった。再開された結婚生活は,しかし暴力に満ちたものであった。また2010年には第4子が生まれる。第4子誕生から6か月後,母親は子供たちを置いてパキスタンを離れた。そしてイギリスにおいて養護権獲得および,子どもの返還を求めて訴訟を提起した。ここでは子供たちについてイギリスの管轄を基礎づける子供たちの常居所の所在が問題[83]となった。第一審は,母親は子供をパキスタンに移住させる意図はなく,その居住は強制であった旨を考慮し,母親の主張を認め,管轄を肯定した。しかし原審は父親の主張を認め,第4子について常居所がパキスタンであるとした。母親上告。

  (2)判断

多数意見はまず従来のイギリス判例における常居所解釈が,CJEUのそれ[84]と異なることを認めつつ,両者は同じテストが採用されることが望ましいとした。

問題となったのは第4子が一度もイギリスに来たことがない点である。この点について最高裁は常居所を「子供の利益の実質的な中心地」と位置付けるProceedings brought by A (Case C-523/07)およびMercredi事件(後掲)の二つのCJEU事件を検討する。そして,常居所は単なる所在地と異なる点,およびMercredi事件においても幼児の場合は監護親の事情が重視される点から以下の結論を導く。「①常居所は事実問題であり,住所のような法的概念ではない。子供が親のと同じ住所を自動的に取得するような法理は存在しない」「②1986年法における常居所概念はハーグ条約およびEU法のそれと同一である。法はこれらの条約群と調和するように解釈されねばならない」「③CJEUでは『子供の社会そして家族環境への一定程度の統合を反映した場所』を検討するというテストを採用した。これは数多くの要素に依存する、それには問題となる国に家族が滞在している理由が含まれる」「④いまや1986年法と1980ハーグ条約の下で異なる結論が提出されることは考え難い」「⑤私の意見では,CJEUにおいて採用されたテストはかつていくつかのイギリス裁判所が採用していた方法と調和する,即ち,子供の状況について焦点を当てるものであり,親の意図及び目的は単に一つの考慮要素にすぎない。Shahルール[85]は廃棄されるべきである」「⑥幼児,幼い子供は当該子供が依存する者もしくは者たち(親であれ第三者であれ)と社会および家族環境を共有する。ゆえに,その者の問題となる国における社会そして家族環境が評価されなければならない」「⑦事実について,そして個別具体的であるという審理の本質性は,事実に基づく調査と異なる結果を生むような法的概念によって曇らされるべきではない」

ただし,子どもの常居所にとって子供の所在は必要な要件であると思われるとしつつ,CJEUによる判断が必要であるとした。管轄についてはEU加盟国以外との問題であるので,イギリス法も適用されるとして,イギリス国籍に基づく管轄権を認めた。

ただし所在地についてはHughes判事が少数意見において幼児の場合は物理的な所在を要件とせずに常居所を得られると主張した。

  2.Re KL 事件[86]

  (1)事案の概要

父親はガーナ出身の米国軍人であり米国市民権を有する。母親はガーナ国籍である。2006年に子供が誕生したが,婚姻生活がうまくいかず,2008年,母親はイギリスに子供を連れて移住した。2010年まで父親がアフガニスタンに従軍中であったが,2010年に父親がテキサスにおいて監護権を求める手続き開始し,父親の監護権が認められた。そして子供は米国に返還された。一方母親は連邦裁判所に子供の常居所がイギリスにあること,父親が違法に子供留置していることを主張して訴え,これは認められた。よって2011年に子供は再びイギリスに移転した。しかしこの決定は父親の控訴によって覆され,テキサス州裁判所は子供の返還を命じた。しかし母親がこれに従わないため,2012年に父親はイギリスにおいて返還手続きを開始した。第一審,原審は常居所がイギリスにあるとして父親の請求却下,父親が上告した。

  (2)判断

「A v Aは1980年条約に基づく手続きではない。しかし,本件と共通の事情,および当事者であるため,1980年条約に基づく手続きであっても同じテストが採用されるべきである。」。「親の意図は常居所の確立,変更において役割果たすことは間違いない。しかしそれは親の意図が法的概念としてではなく,子どもがある国を離れ別の国に行くことの理由としてである。」。本件では子供は父親の意思に反して連れてこられ,また両親に共通の意図もなかった。しかし「この事件において他のすべての要素は別の結論を支持する。母親は父親との結婚前にイギリスに住み,働いていた。すでに2歳の義弟がいて,母親,問題となる子とともに暮らしている。よって母親も子供もいまイギリスにいることが一時的なものと捉えていない。こどもの主観からすると,イギリスは2010年にアメリカに戻るまで二十数か月程度過ごした場所である。」。「以上の事実は子供が十分に統合され馴化していたこと支持する。子供を米国に返還すべきという事実は,父親が返還を望んでいること、かつそして子供が父親の気持ちを認識しているという唯一事実である。」。よって,常居所はイギリスである。ただし,最高裁は子供の最善の利益という観点から手続きについてアメリカで行うことが最適として,子どもの返還を認めた。

  3 Re LC事件[87]

  (1)事案の概要

父親はイギリス国籍。母親はスペイン国籍である。問題となったのは13歳,11歳,9歳,5歳の四人の子供である。子供たちはイギリスで生まれ育った。2012年7月,両親の関係が破綻し,母親は子供たちはをスペインへ連れ帰った。2012年12月,子どもたちは父親とともにクリスマス休暇を過ごすためイギリスにやってきた。しかし,スペインへの帰国予定ある1月5日なっても子供たちを返さず,真ん中二人の子供のパスポートを隠してしまった。2013年,母親が1980年条約に基づく返還手続きを開始した。

第一審は4人の常居所はスペインにあるとして返還を認めた。しかし原審において下の三人は常居所スペインであるとして返還判断維持されたものの,一番上の子供については子供自身による拒絶の抗弁が採用された。そして,下の3人についてもArt.13(2)によるGrave risk抗弁が認められないか検討すべきとして判断を差し戻した。これに対して父親,および長女が原審の常居所判断は子供たちの主観を軽視し,母親の意図を重視するものであるとして上告した。

  (2)判断

多数意見は長女についてはその主観的認識は重要であるとしたものの,下の三人については重視されるべきではないとした。また専門家により,長女はスペイン嫌っていること,11歳の子はあまりすきではないということ,9歳の子はスペインの学校に友達おらず学校が嫌いなことの証言が得られた。「子供の常居所を判断するにあたって,当該子供がその社会,家族環境に一定程度統合しているかどうかによって判断するというテストは明確である。この決定にあたって,裁判所は,成熟した子供が一定期間親の庇護下で居住しているときに,当該子供自身の当該期間の居住について,その居住の関係の性質についての心情を考慮にいれることができるか。」。「私の意見では入れることができる。」。「成熟した子供の居住についての心情は,常居所決定に影響しうる。」。下四人は成熟しているとは認められないが「日々の生活における姉の存在は新たな考慮要素となりうる」。

ただしLadyHaleは真ん中の二人についてもその主観的意図を考慮すべきだとの反対意見を述べた。

  4 検討

まず指摘すべきはイギリスにおいてもCJEUの判断枠組みが採用されたことである。また1980年手続きについてもCJEUの判断が踏襲されることが示された[88]

また,親の意図については考慮しうるものの,一つの要素に過ぎないとされている。一方,考慮すること自体は認める。この点で,親の意図を考慮することを認めない,あるいは子の認識できた限りで認めるルールとは異なる。

また,A v A事件では子の物理的所在が必要かどうかについては必要とされた。しかし,この点では少数意見がある。また,他国裁判所の判断をどこまで重視するかもRe L事件で問題となった。前者については背景に母親へのDVがあった。Schuzはこれらを政策的判断をどこまで常居所判断に含めるかという問題である(前者については常居所をイギリスとすることで,第4子を保護する目的があった)として,常居所はあくまで事実の問題であり,政策的判断は他の条項で考慮されるべきであるとする[89]

また,A v. A事件およびRe LC事件では兄弟姉妹の存在も問題である。この点で子供中心アプローチの場合には,兄弟姉妹ごとに異なる常居所が有する可能性が肯定されることをSchuzは指摘する[90]

  Ⅵカナダ

カナダにおいては近時,子の常居所国決定について現在の議論状況を概観し,判断を下した判例が現れた。

  1 OCL v. Balev事件[91]

  (1)事案の概要

母親(TP)と父親(LBP)は2001年結婚 ドイツ移住する。2002年、2005年子供誕生。しかしドイツの学校になじめなかったため父親が一時的に子供達と母親をカナダに移す同意与える。よって2013年4月から子供たちはオンタリオで居住を始めた。しかし2014年5月,父親は子供達が帰ってこないのではないかと疑い、同意を撤回、ドイツで監護権についての手続き始める。同時に1980条約に基づき,返還請求を申し立てた。2014年8月15日にもともとの同意の期限経過、これにより母親によるカナダでの子供の留置が違法なものとなる。その後ドイツでの父親の監護権手続は却下された。よってオンタリオの返還手続きのみ残存している。2016年に子供たちはドイツに返還されたが,ドイツで母親が単独親権獲得。2017年子供達はまたオンタリオに戻ってきている。

原原審は両親の「居住の意思」,子どもの地域社会への馴化の程度などを勘案し,常居所がオンタリオに移転したことをみとめ,返還命令を却下した。原審は両親が共同親権を有しており,この場合どちらか一方の意思のみにおいて常居所は変更できないこと,それゆえに期限付きの同意は常居所を変更させないとした。加えて,子供他たちの馴化は重要な要素であるが,それが重要でありうるのは違法な連れ去りから1年を経過した以後のことであるとして,ドイツに常居所があるとした。OCL上告。カナダ最高裁はもはやドイツで監護権得られており,子どもたちがカナダに戻ってきている以上上告の利益はないとしつつ,常居所決定方法について以下の判示をした。

  (2)多数意見

McKachlinC.J. (多数意見)は以下のように述べる。

A 3つのアプローチについて

「どのようにしてArt.3の下における常居所を定めるべきか? 常居所決定には三つの決定方法がある。Parental Intention Approach, Hybrid Approach, Child-centered Approachである。」「Parental Intention Approach. この判断方法のばあい、両親の同意がある一時的な移住は常居所を変動させない……期限終了後,もともとの国にいる親はハーグ条約の下で子供の返還を請求することができる。近時のカナダの裁判例はこの方法をとるものが多い。そこでは両親の意思が第一の考慮要素とされる。」「Child-centered Approachは,子どもの馴化(acclimatization)によって判断する。両親の位置は重要ではない。ここでは両親の将来の見とおしに重点を置くのではなく,子どもと当該国のつながりという過去の事情に目が向けられる」「Hybrid Approachにおいてはまず,判断の焦点を定めなければならない。それは子供の人生における違法な連れ去りの直前の時点である。裁判官は問題となる国における子供とその国のすべての重要なつながり,状況を考慮しなければならない。二国を移動している場合は連れ去り後の国におけるそれも考慮しなければならない。」「考慮要素としてその継続性、適法性regularity、状況、子供の所在の理由、国籍。家族の状況はとりわけ子供が幼い時などには重要でありうる。」「両親の状況――それは両親の意思を含むが――は子供が幼いときはとりわけ重要でありうる。しかし近時の判断例は両親の意思に重きを置きすぎることに警戒的である。」「一方の両親のみにでは常居所変更できないという『ルール』はない。両親の意思という法的構築物の強調は事実認定の責務を損なってしまう。」「Hybrid approachは事実に縛られたものであり、実際的である。そして厳格なルールや定式、前提によって損なわれていない。」

B ハーモナイゼーションについて

ハーグ条約のような条約の目的は統一された実務を形成することにある。…そのような解釈をとるべきではないという強い理由がない限り,多くの他国において受け入れられている解釈方法は採用されるべきである。」「近時,多くのハーグ条約加盟国でHybrid Approachが採用されてきている。最終的な結論はいまだ明確になっているとは言えないが,Parental-Intention Approachの拒絶とHybrid Approachの採用という傾向は明らかである。」「ハーモナイゼーションの観点からこの傾向に従うべきである。そしてそれを覆す理由は後述のように存在しない。」

C Hybrid Approachがハーグ条約のテクスト,構造,目的に資することについて

「hybrid approachは迅速な返還という目的を充足する。⑴両親が彼らに監護権を与えるであろう国と子供との繋がりを形成するために子供を連れ去ることを防ぐ⑵子供の常居所における監護権、面会交流の争いの速やかな裁定を促す⑶違法な連れ去り、把持の悪影響から子供を保護する。」「Hybrid Approachはハーグ条約の抜け道を探ろうとする親へのインセンティブを与えない。なぜならば(1)両親の意図は重要な要素ではない(2)裁判官はすべての事情を考慮に入れる,ためである。」「一方Parental-Intention Approachはむしろ両親に条約の抜け道を探らせる。」「Hybrid Approachはまた,迅速な判断のためにも有用である。一見すると他の二つの方法のようが複雑性は少ないように思われる。しかしながら現実はそうではない。Parental-Intention Approachはむしろ紛争の激化を招く。」「Child-Centered Approachは子供が二国を移動したような場合においてそれぞれの国から子供と国とのつながりについての双方矛盾するような証拠が提出され,訴訟が混乱する。これに対し,Hybrid Approachならば,裁判官があらゆる証拠をとりらべることができる。」「また,Hybrid Approachであれば常居所決定の考慮要素と、適切な法廷地決定の考慮要素が重なることになる。これは適切な法廷地決定のためにも資する。」「さらにHybrid Approachはもっとも子供の保護のために資する。」「またHybrid Approachは(1年以内においては無条件の返還を,1年経過後は子供の馴化程度を考慮して返還の可否定めるよう規律する)Art.12と矛盾しない。Art.12はあくまで常居所が決定された以降の問題であり,常居所決定それ自体とは関係がない。」「Hybrid approachの下では両親の同意ある一時的移住も常居所を変動させうる。裁判官は一時的であるという両親の意思、および同意の理由も考慮するが、また他の子供の常居所に関連するあらゆる証拠を考慮する。」

  (2)少数意見

しかし以上の多数意見に対してMoldaverJJ, CôtéJJ ,Rowe JJによる反対意見が提出された。

ハーグ条約の明白な目的は越境的な監護権の実現にあるが、このことは両親の意思に基礎を置く常居所決定方法を補強する。本件ではカナダを子供の新たな常居所にするという両親の合致した意思はない。」「ほとんどの場合、両親の意思こそがキーとして焦点を当てられるべきであり、子供と問題となる管轄との関係性ではない。Hybrid approachは多面的な事実テストという観点から両親の意思の重要性を希薄化させる。その結果は、原則のない、開かれたアプローチである。それはハーグ条約の文言、構造、目的に紐づけられない。それは争訟の生み出してしまう。」「もしも両親が書面によって移住が一時的なものであると合意していたならば、その事実は決定的な重要性を与えられるべきである。もしくは、両親の意思が証拠上明らかな場合は、例外的な状況を除き、常居所が決定されるべきである。子供が順化している場合に例外を認めることもあり得るが、両親の意思の要素を乗り越えるだけの証拠が必要である。」「両親の意思を決定的な要素として扱うべきとする理由はハーグ条約の文言、構造から三つ導かれる。⑴12条は二つの手続き開始時点に依存する条項を有する。第一は、違法な連れ去り、把持から一年経過後に手続きが開始された場合、「子供が新たな環境に定着したと立証された場合には」裁判所は返還命令を下す必要がない。そうでない場合、手続きが一年以内に開始された場合には、裁判所は返還を直ちに命じなければならない。上記からするならば、一年以内に手続きが開始された場合は子供の定着状況は考慮すべきではない。⑵12条によって必要とされる二段階の分析において常居所は第1段階であり、子供の状況は第二段階の問題である。⑶5条における監護権の定義は子供の居住場所を定める権利を含む。このことは両親が、彼らの監護権によって、必ずどこに子供が常居しているかについて影響を有するということを示唆している。」

  (3)検討

OCL v. Balev事件多数意見はについて第一に指摘すべきことは,現状での常居所決定についてParental-Intention Approach, Child-Centered Approach, Hybrid Approachの3種があることを明示的に承認し,意識的にHybrid Approachを採用したことである。この3種に常居所決定方法を分類する分析は,前掲のSchuzの考察に影響を受けたものと考えられる。但しSchuzにおける組み合わせ/ハイブリッドアプローチが子供の認識していた見た親の意図という形で親の意図の範囲を制限するとともに,この子供の認識した親の意図によって他の考慮要素を序列化するのに対し,本件では考慮要素は序列化されない。それゆえに少数意見におけるごった煮であるとの批判を招くことになっている。さらに,Hybrid Approachの特徴として,まず,時的基準点を定め,そこから過去及び未来双方について要素を拾い集めていくという点が指摘されている。即ち,問題は違法な連れ去り/留置の直前における常居所の所在であり,現在の常居所の所在ではない。また,Hybrid Approachが1980条約の文言,構造,目的に適合するとする点も重要である。

第二に指摘すべきは,Hybrid Approachの理由として明示的にハーモナイゼーションが掲げられていることである。1980年条約のような民事的側面に関わる条約について,国際的な法実務統一がその目的であるとされ,それゆえに法解釈についても特段の事情無い限り,国際的に“流行っている”手法が採用されるべきであるとする。このことは日本における実施法解釈についても外国判例が参考とされるべき論拠となる。

一方,反対意見はParental-Intention Approachの立場からHybrid Approachへの詳細な批判を行ったものである。そこでは主にHybrid Approachが①予測可能性を欠き,紛争の種になること②条約の構造からずれることの2点が問題とされる。しかし多数意見は①に対して前掲Schuzの説を引きながら,Parental-Intentionの探索は実際には困難であり紛争の激化を招くこと,③に対しては常居所決定とArt.12における馴化の抗弁は条約の適用段階が異なるという点から反論をしている。

また,アメリ判例においては「馴化」概念はFriedrichルールよりも,Mozesルールにおいて重要な概念であった。しかしカナダ判例では「馴化」はChild-Centered Approachにおける指標とされている。ここでは「馴化」概念が地域社会への「統合」というCJEUにおける基準とほぼ同義に使われているとみることができよう。

  Ⅶ 日本法における適用

以上から日本法についていかなる示唆が得られるだろうか。

  1 海外判例を日本においても参考とすべき理由

この点についてはOCL v. Balev事件における多数意見がもっとも参考になる。即ち,1980条約が民事法における国際的な法実務の統一を目的としているという点,および国際私法としてのハーモナイゼーションから海外判例は参照されるべきである。それゆえ,特段の事情がない限り,海外判例における潮流に従うことが適切である。

とりわけ1980条約はそもそも事件として渉外的性質を帯びざるを得ない。申立人は日本法に不慣れであることが通常である。かつ,1980条約手続は迅速性が重視される手続きである。このような場合において,申立人,その代理人が各国ごとに特有の考慮要素を申立毎に検討し,主張しなければならないとしたら,当該申立人にとって著しく不利であると同時に,調べる手間,主張の食い違いなどから迅速・適切な審理が害される恐れがある。さらに,各国が固有の判断方法を用いるならば当該国の法に慣れない申立人にとって,自らの主張が通るかどうかが見通せないことになり,適切な申立をためらうことになってしまう。最後に,各国固有の判断方法がとられた場合,TPは当然,自らに有利な判断方法採用する国を目指すことになる。このことは結局のところ「法廷地漁り」を招く。

以上から日本における1980条約手続きにおいても他の条約加盟国の判例が参照されるべきである。以下では大きな問題となった,親の意図および,子どもが幼い場合について取り上げてみよう。

  2 親の意図の位置づけと参考となる手法

では,いかなる決定方法が適切か。Schuzは3つの手法があるとした。そして組み合わせ/ハイブリッドアプローチが最も適切であるとした。この組み合わせ/ハイブリッドアプローチはCJEU、イギリス,カナダ判例でそれぞれ採用されているように思われる。しかし,それぞれに微妙な差異があある。また,OCL v. Balev事件少数意見のような批判がある。加えてアメリカではMozesルール(親の意図アプローチ)が多数派である。

まずは親の意図を主要な考慮要素と位置付けるか否かについて検討しよう。この点で,OCL v. Balev事件少数意見が参考になる。少数意見の骨子は,Hybrid Approachは結局諸要素の総合衡量になり,法的安定性を欠くこと,および条約の構造上,子の意図や馴化の程度は別の条項で考慮されているというものである。前者についてはすでにSchuz,OL v. PQ事件判決,多数意見が指摘しているように親の意図を重視した場合,より訴訟が複雑化するという指摘が成り立つように思われる。但し,少数意見はこれに対して親の意図はそれが明確な限りでのみ考慮される,あるいは親の意図は明確である場合は最重要視しなければならないという再反論をするであろう。しかし,いかにして「明確性」が決定されるかが問題となるだろう。

後者については常居所はあくまで事実の評価として定めなければならないという点を重視すべきであろう。事実の考慮要素として馴化の程度、子の意思について条約がこれを廃しているとまでは言えないように思われる。加えて時的問題がある。条約における「常居所」はあくまで違法な連れ去り/留置の直前における常居所である。これに対してArt.5における馴化は連れ去り/留置された先の国についてのものであり,連れ去り/留置後を対象とする。次に子供の拒否(Art.13)についてだが,同様に連れ去り/留置後の意思が問題となるのであり,連れ去り/留置直前の常居所決定における意思とは別個のものであると言える。よって,馴化の程度,子の意思を考慮することは条約における両要素の二重評価とは言えない。

さらに,Schuzの指摘する柔軟性,子の利益,違法な連れ去りの抑止という条約の目的からも親の意図を殊更に重視すべきではないと思われる。

よって親の意図は絶対的な要件ではなく,考慮要素の一つにすぎない。ではそもそも考慮要素とすべきか。

この点ではCJEUにおける導線indicatorになりうるという解釈が適切であるように思われる。即ち,親の意図――たとえば定住目的あるいは期限付きかなど――は子供の滞在の性質決定のための間接事実として考慮されるべきである。またOCL v Balev事件判決が指摘しているように,親の意図を考慮要素とすることで,過去のみならず問題となる居住の将来をも考慮要素に取り込むことができる。例えば,家族で5年間A国に居住していたが,子どもが学校に上がることに合わせてB国へ移住したところ,数か月後に片親が子供をA国に連れ帰ってしまった場合などが考えられよう。この場合,将来の計画は居住の性質決定のために重要な要素になると考えられる。

以上から,原則としてはCJEUによる常居所は子供のその社会,家族環境への一定の統合を反映したものという定義が最も参考になると思われる。ただし,その「統合」に当たって単に過去のみに目を向けるのではなく,居住の将来についても考慮要素とすべきであると思われる。

  3 子供が幼い場合

CJEUにおける判断が参考になる。Mercredi事件では,子が幼い場合には子はその第一次的な監護者とその環境を共有することが多いとされた。よって,子が幼い場合には,その第一次的監護者の境遇が考慮されるべきである。この境遇はあくまで客観的なものであり,親の意図それ自身とは区別されるべきであろう。

  4 大阪高裁決定の再検討

最後に,以上を前提として,具体例として前掲大阪高裁決定について批判的検討を加えよう。

原審である大阪家裁は常居所について「一定期間居住することにより獲得される」としつつその考慮要素としては「連れ去り時典における居住年数,居住目的,居住状況等から総合的に判断されるべきである」とする。このことは事案特有のすべての事情考慮すべきとするCJEUの枠組みや,カナダにおけるHybrid Approachの枠組みと共通するものである。

また本件では対象となる子が1歳数か月という非常に幼い場合であった。その場合について家裁は「子が乳幼児の場合にはその居住目的は監護親の意図により判断されるべきである」と説示している。この点は乳幼児の場合は監護親の意図が要件となるものと読むべきではなく,あくまで居住目的判断の重要な考慮要素の一つになると読むべきであると思われる。現に高裁決定において母親の帰国目的について「帰国意思の存在をもって,子の常居所の判断に影響を及ぼす事情とは言えない」としており,意図はあくまで間接的な要件として見られているようである。

一方本件は母親が父親のDVを訴えている事案であった。このような場合について当該事情は常居所決定に影響を及ぼすか。しかし大阪高裁,家裁ともに当該事情はArt13(2)の検討で触れており,常居所決定においては触れていない。この点は常居所が事実の問題であるという立場からは基本的に是認できるものといえよう。

最後に大阪高裁において母親のアメリカへの移住後の事情(DV保護シェルターに入っていたが,メールのやり取りあったこと,母親のアメリカ移動の目的など)が丁寧に認定されている点が着目に値する。この事情は母親個人のものであるが,子が幼いことに鑑みた場合,その第一次的な監護者であった母親と子は事情を共通にすると考えられる。よって母親の事情は子が母親と状況を共有するという点から認定を行っていると読むべきであろう。

以上より基本的に大阪高裁の判断は原則として是認できると思われる。しかしながら,高裁において母親の事情が丁寧に認定されていること,家裁において居住目的が監護親の意図によって決定されていることなどはその前提となる理論的説明を欠くため,とにかく母子についての事情を何であれ取り上げたという感が否めない。偶然,他国判例におけるそれと一致したという印象も残る。多くの判断例が積み重なることで,そしてその判断例が公開されることで,より,一貫した判断枠組みの形成が望まれる。

 

[1] 条約の基本的な仕組みについては外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html)参照。近時の動向については早川眞一郎「ハーグ条約の運用状況と今後の課題」ジュリ1510号84頁(2017)参照。

[2] この点で,本稿はあくまで「外国判例の紹介」以上の意味を持たない。しかしながら,後述するように1980年条約の手続きについては海外判例を参考とすべき理論的な根拠が存する。それゆえに単なる紹介論文であるが一定の意味があると思われる。

[3] 以下本文では違法な連れ去り,留置を行った親をTP,連れ去られた親をLBPと略称する。

[4] Elisarez-Vera, Explanatory Report on the 1980 Hague Child Abduction Convention, 445, 1982, https://assets.hcch.net/upload/expl28.pdf, last visited March.11,2019.

[5] 条文の和約については外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty180_11.pdf最終閲覧日2019年3月17日)を参照した。

[6] 第三条

子の連れ去り又は留置は、次のa及びbに該当する場合には、不法とする。

a当該連れ去り又は留置の直前に当該子が常居所を有していた国の法令に基づいて個人、施設又は他の機関が共同又は単独で有する監護の権利を侵害していること。

b当該連れ去り若しくは留置の時にaに規定する監護の権利が共同若しくは単独で現実に行使されていていたであろうこと。

aに規定する監護の権利は、特に、法令の適用により、司法上若しくは行政上の決定により、又はaに規定する国の法令に基づいて法的効果を有する合意により生ずるものとする。

[7] 実施法14条4号においては「返還してはならない」という文言になっている。

[8] 中西康=北沢安紀=横溝大=林貴美『国際私法』75頁(有斐閣,2014),

[9] 中西他・前掲注8,75頁,笠原俊宏『国際家族法新論』41頁(文眞堂,2009)など。ただし,主観的意図に従って決まることがないという意味であり,主観的意図は客観的認定の考慮要素にはなる。

[10] 国友明彦「常居所」『国際私法判例百選〔第2版〕』10頁,10頁(有斐閣,2012)。

[11] 中西他・前掲注8,77-78頁

[12] 渡辺惶之「ハーグ子奪取条約及び同実施法における常居所とその判断」阪大法学68巻705頁(2018)。

[13] 渡辺・前掲注12,727頁。

[14] 渡辺・前掲注12,728頁。

[15] 渡辺・前掲注12,729頁

[16]田吉人「ハーグ条約実施法に基づく子の返還申立事件の終局決定例の傾向について」家庭の法と裁判12号27頁(2018)。

[17] 依田・前掲注16,28頁。

[18] 依田・前掲注16,28頁。

[19] 依田・前掲注16,28-29頁。

[20] 依田・前掲注16,29頁。

[21] 渡辺・前掲注12,727頁。

[22]rez-Vera,supra note4.

[23] なお,Rhona Schuzは常居所Habitual Residenceの概念が制定法において取り入れられている場合もあること,しかしその場合の内容については一致していないことを指摘する。(Rhona Schuz, The Hague Child Abduction Convention: Acritical Analysis(Studies in Private International Law Book 13)(English Edition)[Kindle Edition], Chapter8 Section1.B para1, ( 1st ed. 2014))。そのうえで,常居所概念が受け入れられた理由はむしろ事案解決に適切であるというよりもコモンロー法圏とシビルロー法圏の国々双方が受容可能であったためと説明する 。

[24] E.M.Clive, The concept of habitual residence The Judicial Review(Part3), 137, 1997.

[25] Id, at144.

[26] Id, at144-145.

[27] Id, at145.

[28] Id, at146.

[29] Schuz, supra note23, Chap8 Sec1.D Para1.

[30] id, Chap8 Sec1.D Para1.

[31] id, Chap8 Sec1.D Para2.

[32] id, Chap8 Sec1.D Para3.

[33] Id, Chap8 Sec1.E Para1.

[34] Id, Chap8 Sec1.E Para2.

[35] Id, Chap8 Sec1.E Para3.

[36] Id, Chap8 Sec3.A~C. 各モデルの詳細については渡辺・前掲注12,716-717頁も参照。

[37] Id, Chap8 Sec3.A Para1.

[38] Id, Chap8 Sec3.A Para2.

[39] Id, Chap8 Sec3.A Para2.

[40] Id, Chap8 Sec3.A.i Para1-2. 基準のリーディングケースはR v. Barnet London Borough Council, Ex parte Nilish Shah ([1983] 2 AC 309, [1983] 1 All ER 226, [1983] 2 WLR 16, [1982] UKHL 14).

[41] Id, Chap8 Sec3.A.ii Para2. リーディングケースは後述Mozes v. Mozes事件ただしSchuzはMozes事件における判断は先例の誤読に基づくものである旨指摘する。

[42] Id, Chap8 Sec3.A.ii Para4.

[43] Id, Chap8 Sec3.B Para1.

[44] Id, Chap8 Sec3.B Para2.

[45] Id, Chap8 Sec3.B Para2.

[46] Id, Chap8 Sec3.B Para3.

[47] Id, Chap8 Sec3.C Para1.

[48] Id, Chap8 Sec3.B Para2.

[49] Id, Chap8 Sec5.A.i Para1.

[50] Id, Chap8 Sec5.A.i Para2.

[51] Id, Chap8 Sec5.A.i Para3.

[52] Id, Chap8 Sec5.A.i Para4.

[53] Id, Chap8 Sec5.B Para2.

[54] Id, Chap8 Sec5.C.i Para4.

[55] Id, Chap8 Sec5.C.iii Para5.

[56] Id, Chap8 Sec5.C.iii Para5.

[57] Id, Chap8 Sec5.C.iv Para1.

[58] Id, Chap8 Sec5.C.iv Para2.

[59] Id, Chap8 Sec5.I Para2.

[60] Id, Chap8 Sec5.C.iv Para3.

[61] Id, Chap8 Sec5.C.iv Para4.

[62] Id, Chap8 Sec5.C.iv Para4.

[63] Hon. James D. Garbolino, The 1980 Hague Convention on the Civil Aspects of International Child Abduction: A Guide for Judges[Second Edition] ,at50-86, available at https://www.fjc.gov/sites/default/files/2015/Hague%20Convention%20Guide.pdf , last visited at March.14, 2019.

[64] Mozes v. Mozes, 239 F.3d 1067 (9th Cir. 2001).

[65] 渡辺・前掲注12,710頁。

[66] Friedrich v. Friedrich, 983 F.2d 1396, 125 ALR Fed. 703 (6th Cir. 1993).

[67] Robert v. Tesson, 507 G.3d 981 (6th Cir. 2007).

[68] 内容の詳細については渡辺・前掲注12,712-713頁。現在は本稿は2015年公刊の第2版を参照した。

ただし渡辺論文はGarbolino報告書においてMozes事件のルールは3つに場合分けされ分析されているとするが,実際は4つである(例外的状況として両親の共通の意図はないものの常居所変更が認められる場合がある)。また,同論文がGarBolino報告書を引きつつ第六巡回裁判所におけるFriedrichアプローチの基準としている5つのルールは細かく言えばRobert v. Tesson事件のものである(同事件は第六巡回裁判所である)。

[69] Garbolino, supra note63, at 66.

[70] Id, at 67-68.

[71]

Article 10

Jurisdiction in cases of child abduction

In case of wrongful removal or retention of the child, the courts of the Member State where the child was habitually resident immediately before the wrongful removal or retention shall retain their jurisdiction until the child has acquired a habitual residence in another Member State and:

(a) each person, institution or other body having rights of custody has acquiesced in the removal or retention;

or

(b) the child has resided in that other Member State for a period of at least one year after the person, institution or other body having rights of custody has had or should have had knowledge of the whereabouts of the child and the child is settled in his or her new environment and at least one of the following conditions is met:

(i) within one year after the holder of rights of custody has had or should have had knowledge of the whereabouts of the child, no request for return has been lodged before the competent authorities of the Member State where the child has been removed or is being retained;

(ii) a request for return lodged by the holder of rights of custody has been withdrawn and no new request has been lodged within the time limit set in paragraph (i);

(iii) a case before the court in the Member State where the child was habitually resident immediately before the wrongful removal or retention has been closed pursuant to Article 11(7);

(iv) a judgment on custody that does not entail the return of the child has been issued by the courts of the Member State where the child was habitually resident immediately before the wrongful removal or retention.

 

[72]

 Article 11

Return of the child

  1. Where a person, institution or other body having rights of custody applies to the competent authorities in a Member State to deliver a judgment on the basis of the Hague Convention of 25 October 1980 on the Civil Aspects of International Child Abduction (hereinafter "the 1980 Hague Convention"), in order to obtain the return of a child that has been wrongfully removed or retained in a Member State other than the Member State where the child was habitually resident immediately before the wrongful removal or retention, paragraphs 2 to 8 shall apply.
  2. When applying Articles 12 and 13 of the 1980 Hague Convention, it shall be ensured that the child is given the opportunity to be heard during the proceedings unless this appears inappropriate having regard to his or her age or degree of maturity.
  3. A court to which an application for return of a child is made as mentioned in paragraph 1 shall act expeditiously in proceedings on the application, using the most expeditious procedures available in national law.

Without prejudice to the first subparagraph, the court shall, except where exceptional circumstances make this impossible, issue its judgment no later than six weeks after the application is lodged.

  1. A court cannot refuse to return a child on the basis of Article 13b of the 1980 Hague Convention if it is established that adequate arrangements have been made to secure the protection of the child after his or her return.
  2. A court cannot refuse to return a child unless the person who requested the return of the child has been given an opportunity to be heard.
  3. If a court has issued an order on non-return pursuant to Article 13 of the 1980 Hague Convention, the court must immediately either directly or through its central authority, transmit a copy of the court order on non-return and of the relevant documents, in particular a transcript of the hearings before the court, to the court with jurisdiction or central authority in the Member State where the child was habitually resident immediately before the wrongful removal or retention, as determined by national law. The court shall receive all the mentioned documents within one month of the date of the non-return order.
  4. Unless the courts in the Member State where the child was habitually resident immediately before the wrongful removal or retention have already been seised by one of the parties, the court or central authority that receives the information mentioned in paragraph 6 must notify it to the parties and invite them to make submissions to the court, in accordance with national law, within three months of the date of notification so that the court can examine the question of custody of the child.

Without prejudice to the rules on jurisdiction contained in this Regulation, the court shall close the case if no submissions have been received by the court within the time limit.

  1. Notwithstanding a judgment of non-return pursuant to Article 13 of the 1980 Hague Convention, any subsequent judgment which requires the return of the child issued by a court having jurisdiction under this Regulation shall be enforceable in accordance with Section 4 of Chapter III below in order to secure the return of the child.

[73]

Article 8

General jurisdiction

  1. The courts of a Member State shall have jurisdiction in matters of parental responsibility over a child who is habitually resident in that Member State at the time the court is seised.
  2. Paragraph 1 shall be subject to the provisions of Articles 9, 10 and 12.

[74] CJEUおよびイギリス最高裁はArt.8の解釈においてもPérez Reportを引く。1980条約における常居所は,BrusselsIIaにおける解釈と同一になる,あるいはそれが望ましいとの態度がとられているといえよう。

[75] なお先行の判例としてCase C-523/07, Judgment of the Court (Third Chamber) of 2 April 2009 A, E.C.R. 2009 I-02805があるが,同判例はMercredi事件によって上書きされていると考えられること――判断内容はほぼ同一であり判例変更とはできないが,Mercredi事件がより詳細な理由付けを行う――,および近時の判例はMercredi事件を直接の先例とすることから本稿ではMercredi事件及び近時の判例におけるMercrediルールの展開を紹介する。

[76] Case C-497/10 PPU Mercredi v. Chaffe 2010 E.C.R. I-14309.

[77] 同棲であり婚姻ではないため。

[78] Case C-376/14 PPU C. v. M. 2014 published in the electronic Reports of Cases(Court Reports - general) ( http://curia.europa.eu/juris/liste.jsf?language=en&num=C-376/14 ).

[79] Mercredi事件で問題となったArt.8 Art.10は管轄権定める条項である。

[80] Case C-111/17 PPU OL v. PQ 2017 published in the electronic Reports of Cases (Court Reports - general)

 (http://curia.europa.eu/juris/liste.jsf?language=en&num=C-111/17%20PPU)

[81] イギリス(連合王国)では2005年の法改正により貴族院,枢密院の権限が一部委譲され2009年に最高裁が設置された。

[82] A v A and another (Children: Habitual Residence) (Reunite International Child Abduction Centre intervening) [2013] UKSC 60 [2013] 3 WLR 761.

[83] 後述のBrusselsIIa におけるArt.8が第三国と加盟国の間でも適用されると解釈したため。後掲中73参照。

[84] 前述「Ⅳ EU司法裁判所」参照。

[85] 前掲注40.

[86] In re L (A Child) (Habitual Residence) [2013] UKSC 75, [2013] 3 W.L.R. 1597.

[87] Re LC (Children) (International Abduction: Child's Objections to Return) [2014] UKSC 1, [2014] 2 W.L.R. 124.

[88] 以上についてSchuzは歓迎する。Rhona Schuz, Habitual residence of the child revisited: a trilogy of cases in the UK supreme Court, 26(3), Child and Family Law Quarterly 342 (2014).

[89] Id, at354-355, at361.

[90] Id, at 355.

[91] Office of children’s Lawyer(OCL) v. Balev [2018 SCC 16]:                   [2018] 1 SCR 398.

しごと

書きかけだった記事が消えていたので簡易版です。

 

仕事の話です。私はfamily lawチームなのでfamily law関連のことばかりやっています。隣のjudgementチームはクッソ忙しそうです(次の条約ドラフト、調印作業が大詰めを迎えているため)。judgementチームの同僚インターンは上司が同じ中国人ということもあり、大量の仕事を振られて毎日残業してます。私は英語ができないので、そんなに仕事振られません。定時出社定時退社のんびりworkです。やったね()。

 

①1980条約Art.13.1.b)

第一の分野として1980年条約(子の奪取に関するハーグ条約)の稼働状況をサポートするという仕事がある。ここからさらに分野がいくつかわかれるが、第一に問題となるのが13条1項bである。これは「重大な危険」の例外条項である。1980条約の基本的な構造は子供の常居所地国に子供について争う管轄権を与えるというものである。この延長として、もしも子供が片親によって他国へ連れ去られた場合には常居所地国にとりあえず子供の身柄を返還し、改めて本案をあらそう、という構造になる。前提問題であり、かつ、常居所地からの違法な連れ去りがあった場合には原則として返還が命ぜられる(迅速な判断が要請される)という点で占有訴訟と類似するが怖い論点なのでここでは立ち入らない。

違法な連れ去りとは監護権を侵害する連れ去りである。ここでの監護権とは日本法上の監護権よりも広い概念であり、例えば日常の生活や監護教育を母親が担っていて、父親には週一回の面会交流権しか与えられていなかったとしても、母親が勝手に子供を他国に移住させた場合には違法な連れ去りとなりうる。

この違法な連れ去りがあったとしても、連れ去った側から返還拒否の例外事由が主張されることがある。その一つが「重大な危険」である。これは返還が子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険がある(実施法28条1項4号)場合に、返還が拒否できる旨定めたものである。

近年、原則としてこの「重大な危険」条項は制限的に解釈されるべきとの主張がなされている。またHCCHもこの方向を支持している。これは「重大な危険」が実質的な本案審査に入りこみかねないことから、条約の趣旨没却につながるためである。そこで近時持ち出されている概念が「protective measure」保護措置と呼ばれる概念である。これはたとえ重大な危険があったとしても返還先に保護措置があるならば「重大な危険」抗弁は発動しないというものである。もちろんこれは相手国の法制度評価になりうるためこれまた国際私法における領域主権国家間の謙譲の原則への脅威となりうる。ただし、保護措置はあくまで手続法レベルの問題であること、および法制度を評価するのではなく、司法共助のレベルで情報を共有しあい、「保護措置」の有無を確かめることに限定することによっていちおう、抵触は免れる。

ここでの「司法共助」が重要な背景となる。ハーグ条約は原則として中央当局同士の協力をその仕組みの土台に置く。しかしながらここでは中央当局間の協力と同時に裁判所相互の協力が念頭に置かれている。具体的にはIHJN(国際ハーグ条約判事ネットワーク)を通じた情報共有の仕組みである。こうした仕組みが一見理想的に思われるし、HCCHもIHJNを核とした制度設計を行っている。それがのちに述べる1996年条約である。ただ、現状の領域主権国家併存体制の下でこれがうまく機能していくかは定かではない。EU内においてはこの仕組みはEU規則を通じてかなり機能してきた。しかしそれはEU規則およびEU裁判所があるからであり、それがないハーグ条約締結国間でいかなる結論をもたらすのかは不明である。

話を「重大な危険」にもどそう。「重大な危険」についてであるがこれは一方でDVその他で逃亡した片親(多くは母親)にとっては最後の手だてである。よってこの条項を制限的に解することへの警戒心もつよい。とりわけ日本ではその傾向が強いようである。これに対して、HCCH側は保護措置や司法共助、とりわけ返還命令に条件を付すことなどによって対処できるとしている。たとえば、子供だけではなく母親の保護もまた返還の条件に含めるなどである。

以上については邦語文献として北田真理先生の博士論文がある。

早稲田大学リポジトリ

詳細な検討をしていないが、詳細であり、かつ最新(発表当時)の判例、論文を網羅しており、重要であると思われる。ただし、北田論文は上記の裁判所間ネットワーク構想の重要性についてあまり大きな位置づけが与えられていないようにも思われる。またEUの特殊性(EU規則及びEU裁判所の存在)がEU圏の判例にもたらす影響についても考慮に入れる必要がある。

 

②1996年条約8条9条

第二は1996年条約である。これはchild protectionと呼ばれている条約で、親権、監護権に関する紛争の管轄、準拠法、承認、執行についての包括的な条約である。あまりに包括的なため、締結国は少ない(当然)。とはいえEUのほとんどの国は加入しているし、アメリカ、カナダ、オーストラリアなども締結国である。欧米文明である。

この中の8条、9条が問題となる。これは手続きの国際移送を定めた条文で、5条以下で裁判所が管轄を有していたとしても、子と他国に国籍その他の「特別の関係」がありかつ、その他国が手続き進めるうえでより適切であり、さらに、移送が子の「最善の利益」に適う場合には一定の手続きによって手続きを移送できるというものである。移送の仕組みは、まず当事者からの申し立てもしくは裁判所の職権で当該他国に問い合わせをし、当該他国が自ら管轄を有すべきか判断する。そして管轄を有すると考えたときには当該他国の裁判所は手続きを開始し、一方もともとの国の手続きは終了する。これによって疑似的に「移送」が完了する。

裁判を受ける権利はどうなるんだとか、国家主権はどうなるんだとか理論的にはよくわからない条項であるが、まあ多用されている。便利だし。とりわけコモンロー圏では多用されやすい。これはこのルールがコモンローにおけるforum non convenienceと似たようなものだからだろう。ドイツなどではこの条項は合法的な二重管轄(ざっとコンメを見ただけなので内容は不確か、可能ならばあとで修正補足します)を生ぜしめるものと説明される。

ちなみにドイツなどとは異なり、この条項は日本とは相性がいい。民事訴訟法3条の9が日本にあるからである。近時、3条の9は国際的な訴訟競合における管轄却下のために用いられることがある。ただ、3条の9も議論が多いように、この条項も議論すべきことは多い。

なお、EU圏内はEU規則2201/2003(Brussels IIa)15条にほぼ同内容の条文があり、そちらが使われることが多い。というかほとんどである。

 

 

あとは細かいお知らせのドラフトとか、各国の意見書の集約などをやっています。いやー、明らかに日本関係でかつ家族法関連の仕事なのに英語ができないので私に振られず、他のインターン生に仕事が降っていくのをみるのはまあまあ心にくる。

インターン日記 第1回(家賃支払い)

 すでにfacebookで告知したり、会う人会う人にうだうだ言っているので皆知っているとは思うが、現在大学より派遣されてオランダにいる。2か月半という短期間であり、オランダを(ハーグを)知るには短すぎ、また留学体験記としてはあまりにも稚拙であり(そもそも留学じゃないし)、それ以前にそんな情報を載せたブログその他メディアなど無数にあると思われるが、日記をつけることにした。理由は二つ。第一に帰国後滞在レポートを書かねばならないこと(ちなみに過去のレポートがビジネスロー・比較法研究センターHPで公開されている。http://www.ibc.j.u-tokyo.ac.jp/activities/business/exchange.html)。先に日記をつけていて、あとで編集すればおそらく楽だ。第二に、私ほど準備をせず、また英語もできないまま派遣された修了生はおそらく初めてだし今後もでないだろうこと。要するに海外で暮らすにとって適正が最底辺の人間の経験ということ。これは一応書き残しておいてもよいのではないかと思う。今後、留学もしくは日本を出る人間がいたら、まあこんな人間でも周囲の援助と運の良さがあれば生きていけるということを覚えておいてもらいたい。どちらかしかなくても大丈夫だとおもう。両方無いのはしらない。

 

 オランダの家探しは難しい。家の種類は大きく三つである。第一がroomでこれはバストイレキッチンなどは共用のものを指す。要はシェアハウスである。これはまあ安い。家賃は月300~600ユーロほどである。私の家もこれで家賃は525ユーロであった。3か月の超短期なので少々割高である。第二がstudio。これはバストイレキッチンなども個別の部屋で、多くは一人用である。一般的な日本のアパートに近い。家賃は平均500~900ユーロである。第三はapartmentでこれは家族向けの部屋。家賃は1000ユーロを超えることがほとんどである。都市部にすむ限り戸建てということはほぼあり得ないのでこの三つから選ぶことになる。さらにroom、studioは学生向けのものが多く、これらは安い。学生向けには学生の証明が必要らしく、私は使えなかった。税制とか補助金とかその辺の関係なのだろう。

 家を探すには直接不動産屋に行くのも手だが、ネットでのマッチングサイトを使うのも手である。最大手はkamarnetで、私もこれを利用した。ただし日本の出会い系サイトよろしく、マッチングは無料だが相手との交渉のためにはプレミアム会員にならなくてはならない。第二がfacebookグループである。ただしこちらは生き馬の目を抜くような世界である。私は使い方がよくわからなかったので諦めてkamarnetのプレミアム会員になった。

 しかし、そこからさらに難航した。そもそも司法試験直後に出発するため、ほとんど家を探す時間がない。最初目をつけて交渉していたstudioは司法試験のせいで連絡が一週間ほど取れなかった間に他の人間に先を越されていた。クソである。司法試験はやはり許してはならない。そこでkamarnetで第二候補を探す。もうしょうがないのでテンプレートの英文を作り(私は日本の学生で、夏のインターンのために部屋を探しています、という旨)、これを片っ端から送り付ける。反応があっても興味がなければ無視する。ほとんどは一年以上、もしくは半年以上の契約が必要だと断られる。しかしながら幸運にも一つ、見つけることができた。ちなみに決まったのは出発の前日である。一応一週間分の宿はとってあったが。

 ただし、大変だったのはその後である。家主はまず敷金と六月分の家賃の振り込みを要求するわけであるが、それができない。なぜならば契約が決まったのは土曜日で、日本の銀行は原則締まっている。まあそれでもオランダで直接払い込めばいいか―と私は2000ユーロを現金で握りしめ出国したわけである。

 ここで誤算が生じた。オランダはオランダの銀行口座を持たない限り銀行口座への払い込みは原則できないのである。(よく考えればマネーロンダリングなどの関係で当然の規制である。ATMで直接振り込める日本のほうが緩いのである)。そこで次に日本の銀行口座から国際送金できないかを考える。できないのである。まず、インターネットバンキングで国際送金できるようにするためには審査のためいったん書類を送らねばならず2~3週間かかる(ただし審査通過後は自由にできるようになる)。私がその手続きをやっているわけは当然ない。次にアムステルダムまで行って緑銀行の窓口に行くことを考えた。しかし無理である。窓口で送金するためにはマイナンバーが必要である。私が持ってきているはずがない。結局現金でのATM振り込みを許す以上、マネーロンダリング振り込め詐欺等を防ぐことはできていない。何のためのマイナンバーか。制度としてクソである。

 家主と直接払えないか交渉した。無理とのこと。家主はイギリス人で六月はイギリスにずっといるとのこと。そういえば部屋を案内してくれたのは家主の娘(15歳くらい)だった。直接受け取れない、ASAPで振り込めとのメールが来る。これはやばい。第一に模索したのは銀行口座を作ることだった。しかしこれも難しい。オランダで外国人が銀行口座を開設するには原則として社会保障番号BSNが必要である。しかし到着数日でそんなものなどあるわけがない。聞いたら職場の事務担当が現在オランダ外務省に申請中とのこと。うだうだ家主に言ってみるが、とにかく振り込めとのメールが来るのみ。お前は日本の口座を持っているだろうと、だから振り込めるはずだと。家主はほぼ100パーセント正しい。ふつうはできるのだふつうは。私がちゃんと気を付けて手続きしていれば。まあでもこんな人間だからしょうがない。

 途方に暮れていたところwestern unionならば可能との情報を入手する。現金→口座への直接の送金や国際送金を可能とする銀行?で、出稼ぎ移民が本国へ送金するために使う銀行?だ。詐欺やテロ組織のマネロンに使われることでも有名である。このwestern unionは原則としてbranchを持たず、大量のagentを抱える。Agentはそこらへんの携帯ショップだったり怪しい電気屋である。とはいえ怪しいとか詐欺の危険とかまあそれは潜在的なのであって、とりあえず今、私は、部屋から追い出される明白かつ現在の危険に迫られているのである。溺れる者は藁にも縋る。私は2000ユーロを抱えてダウンタウンをさまよいながら怪しい店を訪ね歩いた。今が夏でよかった。冬ならば暗闇の中襲われてもおかしくない。まあそんなわけでCentrumから中華街、StationHS周辺へと次々Agentに電話しながら、そして見つけたAgentの店に入って訪ねながらさ迷うわけである。ちなみに私はリクルートスーツでネクタイを締め、リュックサックを背負った古き良き日本サラリマンの恰好をしている。当然浮く。そもそもネクタイを締めている人間すら少ないのだ。ようやく見つけた口座送金ができるらしいAgentはStationHSの近くにあった。とはいえよく話を聞くと国外の銀行口座への送金のみとのこと。クソである。とはいえ店主は慣れているのかとても親切であった。できれば送金してほしかったが。

 もうすべてをあきらめてスタバに入る。第一は家主にごめんなさいメールを書くため、第二は追い出されたときに備え別の部屋を探すため。しかしそこでふと駅構内に目をむけるとtransfer moneyの看板がある。当時は知らなかったが国際送金、両替を中心に手掛けるGWKtravelexであった。最後の頼みとしてそこに入るとなんと国内口座にも送金できるとのこと。救世主はやはりいたのだった。

 ちなみに振り込みを終えたあと安心してインターネットサーフィンをしていると以下のブログ記事(http://osyama2012.blog.fc2.com/blog-entry-37.html)を見つけた。そのすぐあとABNamroBankからBSNが現在なくとも追完を後でするならばとりあえず口座は開ける旨のメールが来た。事前の下調べ、そして準備は何より大事である。

 あと家探しに直接は関係ないが、最初に保険のためにとったホテルのオーナーに貴様の英語マジクソだな精進しろよと毎日言われて心が折れそうだった。ついでに言うならばgoogle翻訳を使われた。

 

(次回は食べ物についてか、仕事について書きます。)