hobbitMk2のブログ

小宮果穂ちゃんになりたい

しごと

書きかけだった記事が消えていたので簡易版です。

 

仕事の話です。私はfamily lawチームなのでfamily law関連のことばかりやっています。隣のjudgementチームはクッソ忙しそうです(次の条約ドラフト、調印作業が大詰めを迎えているため)。judgementチームの同僚インターンは上司が同じ中国人ということもあり、大量の仕事を振られて毎日残業してます。私は英語ができないので、そんなに仕事振られません。定時出社定時退社のんびりworkです。やったね()。

 

①1980条約Art.13.1.b)

第一の分野として1980年条約(子の奪取に関するハーグ条約)の稼働状況をサポートするという仕事がある。ここからさらに分野がいくつかわかれるが、第一に問題となるのが13条1項bである。これは「重大な危険」の例外条項である。1980条約の基本的な構造は子供の常居所地国に子供について争う管轄権を与えるというものである。この延長として、もしも子供が片親によって他国へ連れ去られた場合には常居所地国にとりあえず子供の身柄を返還し、改めて本案をあらそう、という構造になる。前提問題であり、かつ、常居所地からの違法な連れ去りがあった場合には原則として返還が命ぜられる(迅速な判断が要請される)という点で占有訴訟と類似するが怖い論点なのでここでは立ち入らない。

違法な連れ去りとは監護権を侵害する連れ去りである。ここでの監護権とは日本法上の監護権よりも広い概念であり、例えば日常の生活や監護教育を母親が担っていて、父親には週一回の面会交流権しか与えられていなかったとしても、母親が勝手に子供を他国に移住させた場合には違法な連れ去りとなりうる。

この違法な連れ去りがあったとしても、連れ去った側から返還拒否の例外事由が主張されることがある。その一つが「重大な危険」である。これは返還が子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険がある(実施法28条1項4号)場合に、返還が拒否できる旨定めたものである。

近年、原則としてこの「重大な危険」条項は制限的に解釈されるべきとの主張がなされている。またHCCHもこの方向を支持している。これは「重大な危険」が実質的な本案審査に入りこみかねないことから、条約の趣旨没却につながるためである。そこで近時持ち出されている概念が「protective measure」保護措置と呼ばれる概念である。これはたとえ重大な危険があったとしても返還先に保護措置があるならば「重大な危険」抗弁は発動しないというものである。もちろんこれは相手国の法制度評価になりうるためこれまた国際私法における領域主権国家間の謙譲の原則への脅威となりうる。ただし、保護措置はあくまで手続法レベルの問題であること、および法制度を評価するのではなく、司法共助のレベルで情報を共有しあい、「保護措置」の有無を確かめることに限定することによっていちおう、抵触は免れる。

ここでの「司法共助」が重要な背景となる。ハーグ条約は原則として中央当局同士の協力をその仕組みの土台に置く。しかしながらここでは中央当局間の協力と同時に裁判所相互の協力が念頭に置かれている。具体的にはIHJN(国際ハーグ条約判事ネットワーク)を通じた情報共有の仕組みである。こうした仕組みが一見理想的に思われるし、HCCHもIHJNを核とした制度設計を行っている。それがのちに述べる1996年条約である。ただ、現状の領域主権国家併存体制の下でこれがうまく機能していくかは定かではない。EU内においてはこの仕組みはEU規則を通じてかなり機能してきた。しかしそれはEU規則およびEU裁判所があるからであり、それがないハーグ条約締結国間でいかなる結論をもたらすのかは不明である。

話を「重大な危険」にもどそう。「重大な危険」についてであるがこれは一方でDVその他で逃亡した片親(多くは母親)にとっては最後の手だてである。よってこの条項を制限的に解することへの警戒心もつよい。とりわけ日本ではその傾向が強いようである。これに対して、HCCH側は保護措置や司法共助、とりわけ返還命令に条件を付すことなどによって対処できるとしている。たとえば、子供だけではなく母親の保護もまた返還の条件に含めるなどである。

以上については邦語文献として北田真理先生の博士論文がある。

早稲田大学リポジトリ

詳細な検討をしていないが、詳細であり、かつ最新(発表当時)の判例、論文を網羅しており、重要であると思われる。ただし、北田論文は上記の裁判所間ネットワーク構想の重要性についてあまり大きな位置づけが与えられていないようにも思われる。またEUの特殊性(EU規則及びEU裁判所の存在)がEU圏の判例にもたらす影響についても考慮に入れる必要がある。

 

②1996年条約8条9条

第二は1996年条約である。これはchild protectionと呼ばれている条約で、親権、監護権に関する紛争の管轄、準拠法、承認、執行についての包括的な条約である。あまりに包括的なため、締結国は少ない(当然)。とはいえEUのほとんどの国は加入しているし、アメリカ、カナダ、オーストラリアなども締結国である。欧米文明である。

この中の8条、9条が問題となる。これは手続きの国際移送を定めた条文で、5条以下で裁判所が管轄を有していたとしても、子と他国に国籍その他の「特別の関係」がありかつ、その他国が手続き進めるうえでより適切であり、さらに、移送が子の「最善の利益」に適う場合には一定の手続きによって手続きを移送できるというものである。移送の仕組みは、まず当事者からの申し立てもしくは裁判所の職権で当該他国に問い合わせをし、当該他国が自ら管轄を有すべきか判断する。そして管轄を有すると考えたときには当該他国の裁判所は手続きを開始し、一方もともとの国の手続きは終了する。これによって疑似的に「移送」が完了する。

裁判を受ける権利はどうなるんだとか、国家主権はどうなるんだとか理論的にはよくわからない条項であるが、まあ多用されている。便利だし。とりわけコモンロー圏では多用されやすい。これはこのルールがコモンローにおけるforum non convenienceと似たようなものだからだろう。ドイツなどではこの条項は合法的な二重管轄(ざっとコンメを見ただけなので内容は不確か、可能ならばあとで修正補足します)を生ぜしめるものと説明される。

ちなみにドイツなどとは異なり、この条項は日本とは相性がいい。民事訴訟法3条の9が日本にあるからである。近時、3条の9は国際的な訴訟競合における管轄却下のために用いられることがある。ただ、3条の9も議論が多いように、この条項も議論すべきことは多い。

なお、EU圏内はEU規則2201/2003(Brussels IIa)15条にほぼ同内容の条文があり、そちらが使われることが多い。というかほとんどである。

 

 

あとは細かいお知らせのドラフトとか、各国の意見書の集約などをやっています。いやー、明らかに日本関係でかつ家族法関連の仕事なのに英語ができないので私に振られず、他のインターン生に仕事が降っていくのをみるのはまあまあ心にくる。