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1980ハーグ条約における「常居所地」概念の決定基準についてのメモ。カナダ最高裁判例とCJEU3判例。

近時のカナダの最高裁判決、および三つのCJEUの判決をもとにしたハーグ手続きにおける常居所解釈についてのメモです。判決については全文翻訳ではなく、メモ程度のまとめです。メモなので判決の内容については誤訳、はしょり、誤解は当然あります。(できれば指摘していただければと思います。)。なのでなにかの参考にはしないでください。

 

Canada SC office of children’s Lawyer v. Balev 2018SCC 16

 

事実関係

2001年結婚 ドイツへ

2002年、2005年子供誕生。ドイツの学校になじめなかったため父親が一時的に子供達と母親をカナダに移す同意与える。父親は子供達が帰ってこないのではないかと疑い、同意を撤回、ドイツで監護権についての手続き始める。同時に返還請求。同意の期限経過、ドイツでの父親の手続き却下、よってカナダの返還手続きのみ残存。

原原審返還命令。控訴。原審返還命令認める。OCL上告。ドイツに返還される。ドイツで母親が単独親権獲得。2017年子供達はまたカナダに戻ってくる。

原審維持

ドイツに常居所地あるか?(13(2)については省略)

Hybrid approach

McKachlinC.J. : 三つの決定方法がある。Parental Intention Approach, Hybrid Approach, Child-centered Approach. 昨今のカナダの裁判実務はParental Intention Approach. この判断方法のばあい、両親の同意がある一時的な移住は常居所を変動させない。Hybrid Approachは両親の意思もしくは子供の順化に最重要な焦点を当てるのではなく、裁判官は全ての関連する考慮要素を見なければならない。裁判官は全ての関連する繋がり、状況を考慮する。すなわち、当該国と子供との繋がりlink、当該国における子供の状況、元の国からの移動の状況、子供と元の国との繋がりおよびその国での状況。その継続性、適法性regularity、状況、子供の所在の理由、国籍。両親の状況、その意思はとりわけ子供が幼い時などには重要でありうる。両親の意思という法的構築物の強調は事実認定の責務を損なってしまう。Hybrid approachは事実に縛られた、実際的である。そして厳格なルールや定式、前提によって損なわれていない。

ハーグ条約における明らかな傾向はParental intention Approachの拒絶とmulti-factored hybrid approach の採用である。Hybrid Approachは以下の理由からカナダにおいて採用されるべきである。第一にハーモナイゼーションの原則からこの方法は支持される。第二に、この方法は最も条約の文言、および構造に適合的である。多国間条約の明確な目的の一つは条約に関することについての国内法、実務、原則を統一することにある。ハーグ条約は共通の手続き、迅速な返還を意図している。統一化(ハーモナイズ)の目的を損なわないために国内裁判所は他国の裁判所の決定に重要な考慮を払わなくてはならない。(省略)加えてhybrid approachは迅速な返還という目的を充足する。⑴両親が彼らに監護権を与えるであろう国と子供との繋がりを形成するために子供を連れ去ることを防ぐ⑵子供の常居所における監護権、面会交流の争いの速やかな裁定を促す⑶違法な連れ去り、把持の悪影響から子供を保護する。

 Hybrid approachの下では両親の同意ある一時的移住も常居所を変動させうる。受訴裁判官は一時的であるという両親の意思、および同意の理由も考慮するが、また他の子供の常居所に関連するあらゆる証拠を考慮する。

(以下、省略)

 

Moldaver, Cote, Rowe Judge;

ハーグ条約の明白な目的は越境的な監護権の実現にあるが、このことは両親の意思に基礎を置く常居所決定方法を補強する。本件ではカナダを子供の新たな常居所にするという両親の合致した意思はない。

ほとんどの場合、両親の意思こそがキーとして焦点を当てられるべきであり、子供と問題となる管轄との関係性ではない。Hybrid approachは多面的な事実テストという観点から両親の意思の重要性を希薄化させる。その結果は、原則のない、開かれたアプローチである。それはハーグ条約の文言、構造、目的に紐づけられない。それは争訟の秘訣である。

もしも両親が書面によって移住が一時的なものであると合意していたならば、その事実は決定的な重要性を与えられるべきである。もしくは、両親の意思が証拠上明らかな場合は、例外的な状況を除き、常居所が決定されるべきである。子供が順化している場合に例外を認めることもあり得るが、両親の意思の要素を乗り越えるだけの証拠が必要である。

両親の意思を決定的な要素として扱うべきとする理由はハーグ条約の文言、構造から三つ導かれる。⑴12条は二つの手続き開始時点に依存する条項を有する。第一は、違法な連れ去り、把持から一年経過後に手続きが開始された場合、「子供が新たな環境に定着したと立証された場合には」裁判所は返還命令を下す必要がない。そうでない場合、手続きが一年以内に開始された場合には、裁判所は返還を直ちに命じなければならない。上記からするならば、一年以内に手続きが開始された場合は子供の定着状況は考慮すべきではない。⑵12条によって必要とされる二段階の分析において常居所は第1段階であり、子供の状況は第二段階の問題である。⑶5条における監護権の定義は子供の居住場所を定める権利を含む。このことは両親が、彼らの監護権によって、必ずどこに子供が常居しているかについて影響を有するということを示唆している。

 

 

OL v. PQ(c-111/17 ppu) CJEU

 

OL(Italian父親) PQ(Greek母親)

両親はアテネで出産を決意⇨母親pqアテネに移動、出産(2016年2月)

期限定めたかは争いあり。2016年6月にOLがイタリアで離婚手続き開始

イタリア裁判所は親権者決定にてついては管轄権なしとして却下。離婚については2017年2月23日決定で認める。

同時にOLはギリシャの法廷で返還請求。

ギリシャ裁判所からのCJEUへの判断参照

「Regulation(ec) No 2201/2003 Art.11(1) における常居所の適切な解釈とは何か。共同の責任を有する両親がそこを常居所と定める意思がない場所で生まれた子供の場合、そして、その国に片親によって違法に把持されたもしくは第三国に連れ去られた場合。より特別には、物理的な居場所という要素は全ての常居所を定める場合において前提とされるべきかそれとも新生児の場合のみか」

 

No 2201/2003の文言はハーグ条約に酷似。同じ概念。しかしどちらでも定義されていない。またEU規制の中で国内法を参照するとするものもない。

とするとEU法に自律的な概念として解釈されるべきである。また、その解釈は統一的でなくてはならない。

常居所は一定程度子供とその社会における統合の程度、家族環境と対応しなければならない。また、国内裁判所によって特定される場合には個別の事案における特殊事情が考慮されなければならない。結局は子供がその社会、家族環境にどれだけ統合されているかどうかの考慮要素として物理的な所在も考慮される。

幼児の場合は、幼児の環境とは本質的に家族の環境であって、誰が世話をしているかなどが問題になる。

両親の永住の意思は、考慮に入れうる(can also be taken into account)ただし、物件購入したなどその意思が明確な場合において。よって、両親の意思は、No2201/2003 においては、それ自身によって常居所決定するものにはならない。ただし他の証拠の内容を補完する、indicatorになる。

常居所決定においては当該事件に特有の状況にこそ、重みが置かれるべきである。

本件、子供をギリシャで産むと言う両親の合意がある。

もし本件のような状況下で、両親の明確に示された意思を決定的なものとするならば、No2201/2003における「常居所」の概念、返還手続きの構造、実効性、目的を超えることになる。少なくとも子供のbest interestはこの解釈を要求していない。

第一に両親の意思は、出生以来継続的にある国に子供が居住しているという事実を乗る越えるべきものとされるべきではない。

第二に、1980ハーグ条約および2201/2003の構造から両親は共同で子供の居住地を定める監護権を行使するのであって、それゆえ母親が単独で子供の居所を決定することはありえないとする意見は、子供の常居所決定において決定的なものではない。「違法な連れ去り・留置」は監護権に基礎を置くが、その監護権は連れ去り、留置前の子供の常居所地国のに従う。それゆえ、返還申請において、子供の常居所地決定は監護権の侵害の特定に先行する。よって、監護権の行使としての同意は常居所地決定において考慮されることはありえない。すなわち、あくまで「事実」の問題である。

また2201/2003 Art.10は違法な連れ去り、留置の後に子供が新たなる常居所を獲得することを許容している。

第3に、両親の当初の意思に決定的な重要性を与えることは返還手続きの実効性および法的確実性にとって有害である。返還手続きは急速な手続きであり、目的は迅速な返還である。申請はそれゆえ、迅速に素早く検証可能な証拠、非口頭証拠を基礎に置かなければならない。しかしながら両親の意思、父親の同意について全ての合理的疑いを否定して認定することは難しく、また不可能に近い。しかしながら、両親の当初の意思が重要な要素だとしたら、国内裁判所はその決定のために非常に多く証拠と証言を収集しなければならない。

第四に、返還手続きの目的は子供を最も慣れた環境に置き、子供の生活環境の継続性を保っって成育できるようにすることにある。よって、一方の違法な留置という行為はそれのみによっては子供を生まれ育った国から他の国へと移送することを正当化しない。

また、片親が、違法な連れ去り・留置によって、子供をある裁判管轄から逃して自らの監護権の地位を強化させないことにある。しかし本件では母親にそのような目的はない。

 

最後に、子供の「常居所」は子供のbest interestに従って解釈されねばならない。とりわけ、両親双方との個人的繋がりおよび直接の交流を保つ子供の権利(CRC Art.24(3))は子供が子供が生まれる前に両親が居住していた国をこどもが訪れなければならないとしているわけではない。

 

 

 

 

 

 

  1. v. M. (C-376/14 PPU)

事案

C(イギリス人) M(フランス人)は2008年フランスで結婚して、同年6月子供フランスで誕生。2008年11月離婚手続きへ。2012年決着。共同親権。子供の常居所は2012年7月以降母親とともにあると決定、一方父親に面会交流と滞在の権利?を与える。判決では母親はアイルランドに居住することが認められる。父親は子供についての方法および母親との共有財産についての支払いについてのみ控訴。しかしこれは却下。2012年7月に母親は子供とともにアイルランドへ。ただし父親の面会権、滞在権の行使を認めようとはしていない。

2013年3月、フランス控訴院が居住についての判断ひっくり返す。子供は父親とともに居住すべきで母親は面会交流権、滞在権のみとする。母親は子供の引き渡しは当然拒否

2013年父親が単独親権得るため、そして子供を父親の許可なく出国させることの禁止を求める訴え。これは認められる。

2013年、アイルランド高裁に返還請求。

アイルランド高裁はこれを拒絶。理由は子供がアイルランドに来たことそれ自体はフランス裁判所の終局決定によって認められている(方法についての異議は却下されている)。子供の居住が一時的、条件付きのものと考えることができない。母親が連れてきた時から子供の常居所はアイルランドにある。

 

アイルランド最高裁からの照会

「監護権についてフランスに手続きが継続していることは、本件において、アイルランドが常居所地となることを不可能ならしめるか」

「父親であれフランス裁判所であれ、子供についての監護権を保持し続けることが、違法な留置とみなすために必要か」

「2012年7月段階ではフランスにとって違法ではなかった連れ去りによってアイルランドに居住する子供の常居所について、アイルランド裁判所が判断することができるか」

 

 

判決

フランスで手続き開始時はフランスに常居所=フランスに管轄

返還手続きは親権の実体法とは関わりがない。また返還は監護権の一内容(the merit?)として捉えられるべきではない。

 

まず強調されるべきは、2012年4月2日の判決によって子供は適法にアイルランドに連れてこられたということである。これは終局判決ではないが、仮執行可能なものであった。

よって、仮執行可能な判決によって子供が他国に移動した後、元々の国でその判決がひっくり返され、元々の国に居住する親と住むべきとされた場合であっても、返還手続きを受理した移動先国裁判所は、その事件に特有の全ての状況から主張されているところの違法な連れ去りの直前において常居所がまだ元々の国にあったかを決定しなければならない。

この点において、2201/2003 Art.2(11)の文言は1980ハーグ条約Art.3と近似しているのだが、そこにおける「違法な連れ去り」とは監護権の侵害であって、その監護権は、違法な連れ去り、留置時に子供が常居していた加盟国において、判決、法、法的拘束力ある合意によって与えられたものでなければならない。

返還手続き(2201/2003 Art.2(11), Art.11(1))は違法な連れ去り、留置の直前において子供が返還先(元々の国)に常居所を有していた場合にのみ適用される。

Habitual Residenceの概念については、すでにMercredi事件がある。それはrecital 12 of the preamble to the Regulation 2201/2003 におけるもの、すなわち子供の最善の利益の光のもとに、とりわけ近接性の基準から判断されなければならない。

また先例において裁判所は子供の常居所は国内裁判所によって決定されなければならないがその際、それぞれの個別の事件に特有のすべての事情を考慮に入れなければならないとしてきた。この点について子供の物理的所在地のみならず、その滞在が一時的なものもしくは中間的なものではないことが明らかにされなければならず、子供の居所は子供の社会へ家族環境への統合を一定程度反映した場所と一致しなければならない。

(以下Mercredi の再説)

 

Art.2(11) Art.11 におけるhabitual residence はArt.8 Art.10におけるそれと内容的に異なる概念であってはならない。よって上記の先例によって作られた基準、それzれの個別の事件に特有の全ての事情を考慮に入れるという基準が用いられる。

 

本件のような状況において、子供の滞在の理由及び連れ去った親の意思について審査する際には、裁判所が連れ去りを仮にではあるが認めていることそしてそれに対して控訴なされていたという事実は重要である。判決は仮であるから、それのみで子供の常居所が移転したということを基礎付ける事実にはならない。

子供の最善の利益を保障しなければならないという点に鑑みるならば、これらの事情は、この事件特有の全ての事情の評価の一部として、他の子供の統合の程度を立証するような事情に対して重みが与えられるであろう。しかしながら当該判決(当初の? 控訴審の?不明)以降の経過した時間というものは考慮されるべきではない。

上記から、本件のように仮執行可能な判決によって子供が片親とともに移動したのちに、その判決が破棄され移動元の国に住む片親に共に居住する権利が与えられた場合において、移動先の裁判所は、その事件特有の全ての事情の評価を担うことによって、子供が未だ移動元の国まだ常居所有しているかについて決定しなければならない。評価の一部として、判決が仮にではあるが移動を正当化していたこと及びこれに対して異議申し立てがなされていたことは重要である。

 

 

 

 

Mercredi v. Chaffe  CJEU (C-497/10 PPU)

イングランド控訴院からの照会

「2201/2003 Art.8 and 10 におけるhabitual residence決定のための適切なテストは何か」

(以下省略)

 

CJEU

Art.8, 10は監護権についての国際管轄の文脈。

2201/2003 において「habitual residence」は定義されていない。「habitual」という形容詞からresidenceが一定程度永続的もしくはregulatoryでなければならないというだけ。

加盟国の国内法への参照がない=それ自身独立に、EU内で統一的に解釈されねばならない。

子供の最善の利益の保障が最も考慮されるべきである。Art.8 における常居所は、子供が社会にそして家族環境に一定程度統合されている場所と合致しなければならない。この場所は各国国内裁判所が当該事件に特有の全ての状況を考慮に入れて決定しなければならない。

なかでも、子供の居住状況、その理由、子供の国籍について言及しなければならない。

子供の物理的な所在に加えて、その居住が一時的もしくは中間的なものではないことが明らかにされねばならない。

上記の文脈において、両親の恒久的に子供を他の国に居住させるという、明白な意思–それは不動産の購入などの確かな物証によって基礎付けられるが–は常居所変更のためのindicatorとなることができる。

この点において、常居所を一時的な所在と区別するために、常居所は一般的に、ある程度の永続性を反映した、一定程度の継続性が必要となる。しかし、2201/2003は最小の期間について定めていない。継続期間は、あくまで、永続性の推測材料となるにとどまる。そして、評価は当該事件に特有の全ての状況を考慮に入れて行わなければならない。

本件においては子供の年齢も特別の重要性を有するだろう。

社会的、家族的環境は、それは常居所決定において根本的なものであるが、子供の年齢に従って異なる、多様な要素からなる。

一般的には、幼い子供の環境は家族環境にとって本質的である。それは子供がともに生きる大人、子供が世話をされケアされる大人によって決定される。

また、幼児については、その社会、家族環境をその幼児が依存する大人と共有する。本件について言えば、幼児は母親にケアされていた。よって、母親が社会、家族環境にどれだけ統合されていたかを評価しなければならない。

2201/2003 Art.8, 10 における「常居所」概念は社会、家族環境への子供の一定の統合を反映した居住として解釈されなけれなばならない。幼児が母親とともに、母親の常居所以外の国に、数日のみ滞在していたという場合には、第一にその期間、継続性、状況、そこにいる理由および、その国に来た理由、および母親が移動した理由が、第二に、子供の年齢に応じて母親の地理的そして血縁的(家族的?)出自が、母親の社会、家族への繋がりが考慮されねばならない。

(以下省略)

 

 

(若干のコメント)

CJEUの判決は原則としてRegulation(EC) No 2201/2003の解釈に関するものである。とはいえ2201/2003は1980ハーグ条約を基礎の一部においているし、今後EU圏内では1980条約に関する判決としても同様の解釈がとられるだろう。EU圏内の法解釈がカナダ判決におけるような「国際的な法統一の要請」を介して1980条約締結国に広がっていくことが予想される。日本の裁判所も昨今はとりわけ家族法の文脈において「国際的潮流」を考慮要素として取り入れていることは広く知られているとおりである。この流れの問題点はまず、加盟国の多さから必然的にCJEUの判決が先例として重要とならざるを得ないということになる。EU内における法解釈がそのまま他の世界を制圧する、という現象が予想される。次にこのCJEUの解釈はEU規則を前提としたものである。すなわち、そこには国際管轄についての条項、たとえば離婚、夫婦財産、子供の財産についての管轄、手続きについての共助などのシステムが前提とされて解釈されている。これに対して1980条約はあくまで前提としての子供の常居所地国への返還を目指すものであり、国際管轄についても、準拠法についても定めていない。たとえば、ハーグ条約に従い子供がA国からB国に返還されたとしても、A国が引き続き管轄を有することは可能である。

 

次にCJEUの「事案に特有のすべての事情の評価」アプローチおよびカナダのハイブリッド・アプローチについて若干のコメントをする。そもそも「常居所」はExplanatoryレポートでも述べられていたとおり本来は純事実的なものであって、また「確立」された概念のはずであった。この純事実というものを重視するならば、CJEUのようにありうるすべての状況証拠からそれのみでは現れない「事実」を推測するという手法にたどり着きやすい。

ただし、カナダにおける意見がのべているように、これは結局のところすべての事情をとりあえずどんぶりに突っ込んで、混ぜて、出てきたものを正解とするもので、法的な安定性を欠く。また、事実認定であるが裁判官の恣意に流れやすいという欠点を抱えている。よって「両親の意思」という解釈が提出されるわけである。たしかに文言上、監護権有する両親が子供の居所を決める権限を有しているのであって、また、子供の環境への定着度合いなどはむしろ他の例外条項で考慮されるべき、すなわち常居所決定→違法性認定→例外事情考慮の三段階目で考慮されるべき、事情であるというのは適切な指摘のように思われる。とはいえ、監護権有する両親の意思はそれもまた認定が難しい。ただしこちらは、裁判官は原則として「意思」の認定に慣れていることを考えれば一定の合理性はある。一方で多くの訴訟が意思認定を争うことからわかるとおり、最も紛争を呼びやすい事情でもあるが。またCJEUもその時々の個別的な事情に合わせて重要であろうという事情を提示し、判断要素の序列化を図っている。とりわけ両親の意思については「常居所が移転したかどうか」のひとつのindicatorになると指摘しており、決して無視しているわけではない。特権的な地位を与えているわけではないが、重要性は認めているのだろう。ただし「両親の意思」に「不動産購入など確実な証拠によって立証されたところの」という限定を付加しており、「意思」をそれだけ取り出して重要視することへの警戒感も見て取れる。

 

日本は現在、1980年条約しか締結、批准しておらず、1996条約、2007条約などには参加していない。上記の状況でどこまで「国際的な潮流」を考慮に入れるべきかがまず問われている。また、日本において「常居所」概念はハーグ条約を越えて通則法において取り入れられている。通則法における「常居所」とハーグ条約における「常居所」が同一のものなのかどうかは自明な問題ではない。たとえば中西・北澤・横溝・林『リーガルクエスト 国際私法』などは語句の混乱を避けるためにも同一の解釈が望ましいとしているが、それは上記の「国際的な潮流」が日本の国内法解釈に流れ込むこと、もしくは「国際的な潮流」を無視して日本法独自の解釈を発展させていくことを意味する。ただし「常居所」と「子供の常居所」が異なる概念という考え方はあり得るのであって、おそらくはそれが現状では適切に通則法解釈とハーグ条約解釈を切り分けて考える方策になるか。(なぜ切り分けられなければならないか。迅速性を重視するハーグ手続きと、時間を掛けて当事者双方の立証を尽くさせる通常の訴訟手続きで、同一の解釈手法、解釈基準が取られることは双方にとって有害なのではないか。ただし、この点については異論が当然ありうる)。